アメリカのブッシュ大統領より大統領生命倫理委員会の委員長に任命された著者による,現代生命倫理学に対する批判的問題提起の書です。しかしながら,邦題は内容の一部を誇張したように思えます。というのも原題は"Life, Liberty and the Defense of Dignity: The Challenge for Bioethics"であり,直訳するなら「生命,自由,尊厳の防衛−生命倫理学への挑戦−」となるからです。実際,著者はまず第1章で現代リベラリズムのテクノロジーに対するスタンスを問いかけることから論を始め,次いで第2章で生命の意味を問うています。この2章までの部分は後の議論の前提となるものですが,やや分かりづらい内容なのが残念です。そして3章以降で遺伝子操作,クローン,臓器売買,死ぬ権利と展開していきます。具体的事例を扱うこれらの章は,非常に読みやすく,説得力を持っています。本書の著者は,ユダヤ・キリスト教の背景を持つ人物ですが,自分の主張を断定的に述べるのではなく,客観的問題提起の形で提示しているので,多くの方に違和感なく受け入れられるのではないかと思います。また,医療技術や統計的データによる論証に深入りすることを避けているのも好感が持てます。(つまりこの本は学術論文的位置づけではなく,哲学的な書物だと受け取るべきでしょう)。全体的に見て,本書は現代生命倫理学の直面する課題に取り組む出発点として,良い示唆を与えてくれるものと言えるでしょう。