知らないことを知るという喜びは、えもいわれぬ力を与えてくれるものだ。本書を読んで現在の深海熱水活動域から40億年前の原始地球さらには宇宙空間へとタイムスリップすることができるパスポートを得たような気がする。
専門家向けでなく一般向けに書かれたとはいえ単なる概要をまとめただけのものではない。第一線で研究を続けている筆者そしてその研究グループが突き止めようと目指している方向が明確に示されている。難解な部分に対する言及もあるようだが、決して単に難解であるとは思わない。確かに基礎的な知識が不足していればそう感じるかもしれない。ただ、具体的で専門的な言葉を研究者並みに理解する必要はないが、2〜5章の流れは彼らの提唱する仮設を理解する上で恐らく最小限度知っておくべき知識なのだ。ここを少しでも理解してこそ、読者は地球が生まれる前の宇宙と活発に活動する地球環境(大気、海、マグマ)すべてをリンクして思い描くことが可能になる。筆者の言う「生命は、生命を取り囲みその生命を含んだ生命圏の在り方やその中のエネルギーや物質の流れのなかで考えるべきだ」という考えも、そうした一連の流れの中でこそより一層厚みが増すのだ。
彼らの研究は、一つの惑星の始まりにあったであろうドラマを、今現在も残されている僅かな手掛かりから,物語として破綻をきたすことのないromanへと書き換える緻密な作業のようにも思われてならない。
また本書には、随所に生身の研究者たちが顔をのぞかせている。そして筆者が見た感じたままの表現で現場の臨場感を伝えてくれる。こうした部分は筆者自身も楽しんでいるのであろう。難を言えば、読者が生命の起源へと旅する夢想からいきなり引き戻されるような表現が所々にあるのは確かであるが、これが筆者の描きたい世界なら仕方あるまい。あくまで科学者による科学読本であるのだから。
本書に興味を抱く人はもちろんのこと、おそらく程度の差こそあれ、誰もが一度は思いをはせたことがあるのではないだろうか、「命の始まりとはどのようなものであったのか」と。幼いころの、まだ言葉にもならないような漠とした思いにも似た問いだ。この問いは人類の根源的な問いなのだ。本書は改めてそのことに気づかせてくれた。
本書を手に取った各人がそれぞれ「何か」を得ることであろう。是非一読をお勧めしたい。