訳者解説のとおり、生命の起源とその後の発展の歴史を論じた著作である。前著『生命』と比べて、基本的な考え方は変わらない。起源という始まりを問うた時点で、今でない昔から今に至るまでの変化を説明する必要が生じる。要するに、起源と歴史は抱き合わせである。
その起源と歴史について、オパーリンは次のように考える。原始地球において、炭素と窒素の還元型であるメタンやアンモニアが非生物的に生じ、「引続く有機物質の進化の出発物となった」。その結果、地球の水圏においてアミノ酸や核酸の単量体・重合体や高エネルギーリン酸化合物が生じ、《最初のスープ》が生じた。水圏ではこれら有機物質が濃縮してコアセルヴェートが形成されていったが、本著では、コアセルヴェートと原始生命との間に、プロトビオントという中間段階を設定した。「この種の系は積極的に外界と相互作用し、動的安定性をもち、単に存在を維持するだけでなく、「最初のスープ」の条件で成長する能力をもっている。われわれは、説明の便宜上、以後これを象徴的に「プロトビオント」とよぼう」、と。
しかし、進化の過程について一筋縄ではいかない。次のように述べている。「最初のスープ」の溶液中でも、「糖・アミノ酸・プリンとピリミジン塩基、およびその非特異的な重合体の広汎な非生物的生成の可能性を考えることは容易であるが、現在の型のタンパク質や核酸がそこで非生物的に生成したことは全くありそうにない」。
「合目的的につくられたタンパク質 ― 酵素は、原始的にせよ物質代謝を若干もっている系全体の進化の過程によって始めて生成し完成した」。すなわち、「自然淘汰を受けたのは、個々の分子構造ではなく、個々の動的な系であって、与えられた外界の条件における系の保存と発展という課題にその原始的代謝が適合するか否かによって行われたと考えられる」のである。
単純な分子には単純なシステムが伴走するし、複雑な分子にはそれなりのシステムが必要とされる。単純な分子がそのまま安易に、現在のような有機化合物に複雑化したのではない。システムあっての反応物であり、ハードはソフトの存在抜きには考えられない。そういう気配りができているところは感心させられた。
それにしても、情報の伝達が緩慢なこの時代のソ連で、ずいぶんとよく勉強している。DNAの二重らせん構造、セントラルドグマ、アロステリック酵素、共生発生説、RNAワールドなどなど。前著『生命』に比べて、タンパク質と核酸の関係についての知見が格段深くなっている。