第一部がNHKスペシャル取材班の取材内容をまとめたもの、第二部が山中伸弥教授・立花隆氏・国谷裕子氏の鼎談録という構成。この手の最先端科学分野の書籍は、読まれる時代と読み手のリテラシーで評価が大きく変わるだろうが、個人的には、一般人がiPS細胞という最先端のトピックを概観する上で重要な論点を分かり易く網羅的に、そして面白くまとめていると感じた。
本書は読者の期待に添うようにiPS細胞発見が扉を開いた様々な可能性(本丸の再生医療のみならず創薬プロセスや病因解明研究への応用)とその重要性を概説するが(第二章)、おそらく本書のクライマックスは一般人に生命倫理を考えさせるところだと思う(第三章)。細胞提供者本人の権利問題から、iPS細胞の生殖細胞への文化が曖昧にする家族や性という概念、そして臓器工場というSFネタが現実になる可能性に我々はどう向き合うのか。最先端の科学がもたらす生命倫理問題は、「一部識者が話し合い、一般国民は無関心」では済まされない段階に達している。
世界の研究者や民間企業との激しい競争が描かれるくだりも面白い(第五章)。論文発表と特許取得という異なるゴールをアカデミアが同時に追求しなければならない現状に資本主義型(米国型)医療経済の功罪を考えさせられる。学術的な大発見を成し遂げるだけでは医療現場に持ち込むことはできない。経済性を伴った形で多くの患者に届けるためにも排他的権利を獲得しなければならないとは皮肉にも聞こえるが、これが現実なのだ。
尚、山中教授の研究者としての軌跡を追うiPS細胞発見物語で本書は幕を開けるが、この第一章を締め括る「人間万事塞翁が馬」が心に残る。よく使われる言葉であるが、紆余曲折を経て大発見を成し遂げた研究者の人生訓として聞くと尚一層心に響くものがある。