医学者は「医学」の視点だけで「医療」のあり方を提言する傾向があるが、医学の常識が必ずしも社会の常識ではない。たとえば、医師は患者を治療することに最大の関心があるため、医療費が多くの国民の税金や保険料で賄われていることを忘れがちになる。だから医療に優先して財源を配分することを当然視しているところがある。
一方、社会科学者は「医学」や「医療の現場」に関する認識が乏しく、往々にして医療現場から見れば、時として不適切、非常識な意見と揶揄されることもある。たとえば、一時話題となった終末期医療にかかる医療費の大きさが問題視されたことは、医師や患者からすれば到底理解できない主張である。
どちらにもそれなりの理屈があるのかもしれないが、今求められていることは、それぞれの立場を一方的に主張しあうのではなく、どういった医療保障をするべきなのかを、きちんと議論するべきことだろう。これからますます高齢化が進む中で、無尽蔵には医療に人もお金も費やすくことはできないのだから。
本書は、その問題意識に応える一つの意欲的な提案を記したものである。自由と医療は一見、無関係な印象を受ける。しかし、一人ひとりが幸福を追求する自由があるはずであり、医療はいつも他の問題よりも優先するべきとは言えない。本書では、救命医療(=平等に提供するべきもの)と自立医療(=個々人の自由とのバランスで提供するべきもの)の二つに分ける理念を提供している。もちろん、実際の制度に生かすためにはいくつものハードルがあるのだろうが、医療保障のあり方を考える拠り所としての理念を考える時には、本書の主張を受け入れるかどうかは別としても、参考になるのではないだろうか。