電気生理学のメインストリーム:最良の入門書
ある分野について学ぶ時に、その分野が発展してきた順番に学んでいくという方法は有効だ。中には今では否定されている学説もあるが、その学説がどのようにして反駁されたのかを知ることは、今の説の「正しさ」を知り、将来を展望する上でも大切なことだろう。電気生理の黎明期から今日に至る発展のメインストリームを、あくまで実験に注目しながら解説する本書は、この分野の教科書として最良だと信じる。また、偉大な先人達についてのエピソードも豊富で、科学が産まれた瞬間についての想像を大いに掻き立てられた。
以下に、本書の他の良い点を列挙する。
・生体現象の基盤となる基礎物理についても、わかりやすい説明をしている。
・模式図が良い。簡明でかつ、実際の実験を経験した著者ならではリアルさが適度に盛り込まれている。
・説明が簡単すぎない。難しすぎない。今の中高の教科書を
見ると思うのだが、簡単過ぎる説明はかえって解りにくい。
きちんと原理まで説明することで、理解がむしろ簡単になる
ことは多いのだ。杉先生はある大学の文系学生の為の講義を
長年されているそうだが、その経験が随所に生かされている。
・ご本人に交流のあったカッツや、後書きによるとやはり生理学
者であられたお父上からお聞きになったという加藤や田崎らの
研究についての記載が、正確でかつ生き生きとしている。
古い実験系についての記載の正確さは、著者が幼少時にお父
上に見せてもらった経験によるところも大きいようだ。その
点で電気生理が生まれ、発展した時期に生きた杉親子二代に
よって本書は成されたといえる。
・カネマツ研究所や、ともすれば埋もれてしまいかねない内外
の優れた研究業績についても、バランス良く紹介されている。