どこまで生を無条件に肯定できるか、つきつめると出生前診断の結果、障害と分かっても生むべきかそれとも中絶する権利が母親にあるのか、非常に判断に悩む問題であるし、倫理学の深部まで考察するのはなかなか難しい。
当事者としてはあまり倫理学には疎いのだが、障害学を学ぶ立場としては分配上の正義が倫理学的位置から決められることはちゃんと抑えておきたい。功利主義的立場を肯定する以上、障害者の福祉には常にスティグマがつきまとう。本書は、障害者が自らの生をちゃんと肯定して生きるために主張するための知恵、功利主義立場に寄り添う経済学と対峙する視点を養う。
アマルティア・センの思想は、社会的公正さのなかに障害者も加えた視点を提示するが、筆者はまだまだ精神障害者や発達障害者には不十分だと主張する。評者は、センのケイパビリティ・アプローチは精神障害者や発達障害者に拡張しうると思っているのだが、他の読者はどうだろうか。