浜松医大教授で動物生理・行動学を専門とする針山孝彦氏の著作。自身が行っている節足動物の研究を主として、生物が持つ様々な不思議な行動様式や情報認識についてを紹介し解説している。全1O章からなるが、前半の半分は南極やケニア山での滞在記であり、一般人が行くことのできない土地での面白いエピソードも紹介されている。広い読者層を対象としており、平易な口語調の文体で、250ページ程度の内容も中学生以上であれば数時間から数日で読破可能。
『生物と無生物のあいだ(福岡伸一著)』や『眼の誕生(Aパーカー著)』と同様の手法で、学術書というよりは読み物という感が強い。このような構成にすることで、著者自身が感じた感動や研究の面白さが誰にも伝わるようになっている。カメムシやフナムシの行動には『へえー』と驚かされると同時に、『これに気づいたとき著者は嬉しかっただろうな』という感慨が理解できるし、これによって理想的な研究者の姿勢が自分の足と眼で探究することであることがよくわかる。
難点を挙げるならば、それぞれの研究成果についての紹介が観察中心の記述になっており、科学的な根拠や原理についての専門的な記述がないため、ある程度詳しい読者にとっては『なぜ?』という欲求が満たされず不満が残る点。初心者にも楽しく読まれることが目的であるのは理解できるが、書としての完成度を高めるのであれば、せめて参考文献や論文について、巻末に提示すべきと感じた。また、記述法の都合上、やや根拠の乏しい主観的な意見もあり、『外骨格は捕食圧よりも移動のために発達した』などは反論も多いように感じる。これらについての客観性に注意しながら読む必要がある。
全体的な感想は、非常に面白く、生物の不思議さ意外にも、研究者のあるべき姿など多くの点で勉強になった。前述の問題点を考慮して星4つに留まるも、初心者の入門書としてであれば無条件に勧められる良書。