「サダム・フセインの愛人」と呼ばれた主人公の数奇な運命が、凄まじい迫力で語られます。
16歳の少女が独裁者に処女を捧げ、独裁者にコントロールされる人生を送ったと聞くと悲哀だけを想像しますが、
実際はちょっと違います。裕福なお嬢様だった彼女には、貧困から這い上がり権力の階段を昇っていくサダムが、自分の周囲にいた男性とは全く異なる魅力を備えた男性として写るのです。確かに最初は恋心があったのです。
その後も、終始怯えながらも、サダムの母親や友人のような役割も彼女は果たしてきました。長く傍にいるうちに、愛情ではないけれど何らかの「情」が二人の間には生まれていたのでしょう。他の情報からは得られない暴君サダム・フセインの実像に読者は触れることができます。
一方で、フセイン政権下でイラク国民が体験した恐怖の日常には慄然とします。サダムにはのし上がるという目標がありましたが、その息子たちは権力を振りかざす獣でしかありません。サダムの息子は主人公の娘をレイプしたり、国際試合で負けたサッカー選手に拷問したり・・・。残酷なシーンも数々登場するのですが、どんどん引き込まれて、途中で本を閉じることができませんでした。
特に、最後の主人公の逃亡劇は、もうこのまま映画になるのではないかというハラハラ、ドキドキの連続です。
まさに、真実は小説よりも奇なり。
人間の愚かな歴史として、二度と繰り返してはならない歴史として、我々も知らなければいけない真実だと思います。