志村喬こそ日本が生んだ最高の俳優だと思っている。
黒澤監督の「七人の侍」では勇敢な侍大将を演じた志村喬は、この映画では死に怯える庶民の喜怒哀楽を描きだしている。
豪快な大作から、市井の人の人生にまで目をやる黒澤監督のヒューマニズムもさることながら、その役を見事に演じた志村喬の素晴らしさ、見事さを感じてしまう。彼がいたからこそ作れた作品だと思う。
この映画は、お役所仕事という呼び方があるように市役所で無為な毎日を過ごしている志村演ずるところの渡辺が、ガンを告知されて一旦は絶望しながらもわずかに残った人生を懸命に”生きる”物語である。ここで示された課題は今も我々自身の課題でもある。この普遍的なテーマこそが、この作品に永遠の命を与えているのだろう。
志村喬が絶望した時に、初めて夜の街をうろつくが、当時の風俗が再現され興味深い。さらに、一人息子との断絶状態など、当時からサラリーマンの家庭事情は変わっていないことがよくわかる。
後半は、一転、渡辺の葬式での会葬者の思い出話による回想という展開になる。渡辺がどうやって死の恐怖と戦い、何をしようとしていたのか、実は回りのものには分からない。一人の人間の内面のことは回りのものには理解出来ないことが多い。それを皆が一つ一つ思い出を語っているうちに、”渡辺”の真の姿で次第にみんなの心に甦ってゆく。そして、あの公園のブランコのシーンへたどり着いてゆく・・・。
派手さもなく、坦々とした物語ですが、日本映画界が生み出した最高の作品だと思います。