これからの日本は製造業から抜け出し、新しい産業構造を目指さなければ生き残れないという議論がある。しかし、すべての製造業が日本から消えることはない。これからの日本の製造業が世界を相手にそこそこに生き残っていくためには、「知恵」をつけるしかない。
「トヨタ生産方式」の本質は、人間尊重の「知恵」にある。人間を尊重し、どうすれば人を育てられるか。どうすれば人を幸せにできるか。それを考え、実現するための知恵、それが「トヨタ生産方式」の本質であるように思う。まさに、「生きる哲学」でもある。
この本は、「トヨタ生産方式」を生み出した大野耐一、それを前線で実行した鈴村喜久男、それを広めた張富士夫の3人の下で薫陶を受けた著者による。先の3人はそれぞれキャラが立っていて、読み物としても面白い。著者が入社して間もない頃から物語は始まるので、若い人が読むとやる気が出る、自己啓発的な本でもある。
逆に、「トヨタ生産方式」をタクティクスとしてのみ導入しようとしている人が読んでも、参考にはならないかもしれない。この本が伝えるのは、「トヨタ生産方式」の小手先の技術ではなく、その根底に流れる「哲学」である。
たまたま私が、文系出身で現在メーカーの工場で生産に近いところで働いているという、著者の境遇に近いところが多かったので共感する部分は多かった。そのため、少し過大評価している面はあるかもしれないが、現場からずっと「トヨタ生産方式」を参与観察してきた著者の「知恵」に学ぶところは多いはずである。
製造業以外の分野でも「トヨタ生産方式」を導入し、業務の「カイゼン」を図っている企業が増えつつあるという。どのような業界の、どのような立場が読んでも、何かしら得るものは必ずある本であると思う。