この本を最初に読んだのは、10代の後半だったが、人生で最も影響を受
けた本かもしれない。
フロムの言う「あること(to be)」とは、仏教における無執着・禅の悟
りの境地に近く、親交のあった鈴木大拙の影響が見られる。「仏教ブー
ム」の昨今、西洋の思想家にもこういう人がいたことを知ってもらいた
い。そして、この本をきっかけにフロムの初期の著作に進むとなおよい
と思う。
しいて難点を言うならば、彼の『正気の社会』などにもみられるのだ
が、本書後半でフロムの構想する社会思想が、非常に粗削りでナイー
ブ、そしてユートピア的なものである点。
しかしそれを差し引いても、存在とは何か、生きるとは何かを考え、迷
っている若者や社会人に、一つの力強い方向性を示してくれ、人を勇気
づける本だ。現代の古典的名著だと思う。
蛇足ながら。本著を読んでも、「自分は〈あること〉で生きていないの
ではないか」などと日常、くよくよ悩まないこと。それも一つの執着で
あり、「持つ様式」だろう。「過ち」や「欠点」も含め、今ある全存在
を肯定して、少しずつ「あること」に近づいていく<プロセス>こそ、
あること(being)の道なのだから。