かつての近代文学も「クラシックライブラリー」として取り扱われるようになった。大正から昭和にかけて生きた作家も、平成20年に近づくと、歴史の領域に入ってくるのかもしれない。近代文学もいずれは時の流れで篩に掛けられて次代にも鑑賞に耐えられる「いのちある文学」古典として読み直されるのも自然の趨勢であろう。それはそれで、結構なことと思いたい。
本書に掲載された作品。どんな基準で選ばれ、まとめられたのであろうか。
坂口安吾「風と光と二十の私と」…捨てるというヤケクソの志向が実は青春の足音のひとつにすぎないという「堕落論」の作者。教員時代の変に満ち足りた一年間を回想して、「嘘のような変に白々しい気持」になって【開き直って生きる】ことで未来は開ける…
有島武郎「小さき者へ」…母を亡くした、まだ幼くいとしい子どもに向かって語りかける名作。「父と母との祝福を胸にしめて人の世の旅に登れ。前途は遠い。そして暗い…行け。勇んで。小さき者よ」と励ます人道主義者は【光明を求め前向きに生きる】ことを訴える。
冒頭この二作家の二作品にしても対照的な人生の生き方が如実である。後出の次のような作家・作品もそれぞれの特色ある生の軌跡を見せて魅力あるものになっている。
宮本百合子「生活のなかにある美について」 梶井基次郎「Kの昇天」 高村光太郎「千恵子の反省」 中原中也「亡弟」 堀辰雄「窓」 心に響く好短編である。