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著者は知識=情報のために読んだ本の内容はすぐ忘れると言う。この情報洪水の時代に、読むべき本を取捨選択しなくてはならないのは当然だろう。しかし、この取捨選択の基準を確立するためには、かなりの無駄も覚悟しなくてはならないのではないだろうか。それに、明らかに無価値の本を除けば、何があとあと役に立つかは自分にさえ分からないのである。
細部で反発を感じた箇所もある。著者はスタンダールの『パルムの僧院』の教訓から「自分のよく知らないことについて文句を唱えるのをやめた」(77頁)と言っているが、おそらくコミックなど読んだことのない著者が、コミックを最初から無価値のものと決め付けるのは矛盾している。
また、ホフマンスタールのドイツ人批判に呼応して、著者がどっちつかずで価値観に一貫性のない日本人の姿を嘆く箇所がある。日本人といても「人間と共にいるというあの安心感とよろこびがない」(58頁)と。これは「日本人には個性がない」「自己主張がない」といった聞き飽きた日本人評と同類のものであるが、このような軽々しい一般化は、個々の人間の精神における細かいひだまでとらえるべき文学者としては落第である。森巣博が言うように、「セキュリティ・チェーンをかけたドアの隙間からしか世界を見ない人」は、「ほんのわずかな隙間から見た世界でその国を理解し、納得し、了解し、しかも憎悪していく」(『ナショナリズムの克服』63頁)のである。もっと個々の人間をよく見ろ、と言いたい。