戦中に書かれた作品であり、おそらく反戦とか反日とかは全く意識していなかったと思われる。人間として兵士をとらえる、その兵士の気持ちになってみる、そういう視点で書かれた作品ではないだろうか。そして真に迫りすぎた上、発禁になった。そういう本だ。
南京大虐殺関連で「大殺戮の痕跡は一片も見ておりません」という否定派としての言質がとられているが、その人がここまで描いていた、という点に注目すべきであろう。「大」虐殺ではないが、虐殺は描いているのである。よき夫であり父である心優しき人たちが、いとも簡単に非戦闘員の命を奪っていく。それはやはり狂気だ。いかにして兵士は狂気に染まっていったのか。その描写が真に迫る。
戦時下だなぁ、と思わせたのは、南京を落とした後、転戦していく兵士たちの士気が高いように描いている点。首都・南京を落とせばこの戦争に勝てる、故国に帰れる、だから兵士たちはがんばっていたはずだ。南京を落としても戦争が続くことに兵士たちは落胆していたはずである。士気が高いままであった、というのはウソだろう。著者は戦意の高揚をねらってこの本を書いたのである。