深沢七郎の実に十八年ぶりの単行本らしい。タイトルに惹かれて手に取った。深沢七郎は“庶民派”と言われたけど、それは当時大衆と乖離してしまっていた教養主義、権威主義的な文壇、日本文学に対するカウンターとしての表現だと思う。深沢七郎は庶民の共同体的な意識をこそ徹底的に否定する。本書でも、
「人間との結びつきはきらいなんだよ。犬にもあまり慕われるとイヤ。」
「日本人っていうのは、みんなうすぎたないやつだよ、みんな。権威にはウンと弱くてね。」といった言葉が炸裂する。
そして、一見アナーキーなこうした言葉は、人間たって所詮はただの生き物、つまり自然の一部ってことを根本にすえて考えれば理にかなってるのだ。深沢七郎の世界観は、谷岡ヤスジの村(ソン)にも近い。
でも、ラブミー農場も村(ソン)もユートピアであって、多くの人の現実ではない。人間は、たぶん、自然の一部、動物の一員には、もはやなれないから。深沢七郎には、だから共感の一方で反発もある。
いずれにしても、人様の「権威」や「理論」なんてベクトルには動じず、「楽しく暇つぶしで生きよう」って言って、それをまっとうした人がいたってことは覚えておきたい。ますます深沢七郎的な生き方がむずかしい今だからこそ。