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この無駄話でいっぱいの文章は、例えばハムレットの端役に焦点をあてた「ローゼンクランツとギルデンスターンは死んだ」のように無駄な人間などいないという意図のもとに書かれた作品を連想させたりもするし、饒舌と寡黙は同じコインの裏表と自ら証明したベケットの無表情な喜劇的小説を思わせたりもする。
だからと言って、ストーリーがまるでないわけではなく、まるで結末から逃げ出そうとするかのように脱線していく物語のその裏で、ボニー&クライドばりの悲喜劇が静かには進行していくのでした。
柴田元幸氏の名訳で、是非「上等な憂鬱」を味わって下さい。
翻訳という「プロセス」がそこに介在したことは微塵も感じさせない。『甘美なる来世へ』の最大の特徴となっている語り口が、日本語でも違和感なく味わえる見事な訳である。
読み終えてみると『甘美なる来世へ』は僕らをどこにも連れていかないし、いかなる教えもそこにはない。脱線に次ぐ脱線で本線の話はいったい何だったのか忘れそうになるとき、思い出したように本線に戻っていく。かといって退屈だとか散漫すぎて要点がつかめないとか、面白くないとかいったことはけっしてない。
それどころかその脱線の語り口の絶妙さに時間も本線のことも忘れて没入してしまうのである。ピアソンの小説においては脱線こそが命である、とさえ言えるかもしれない。
本書はある青年が引き起こした凶悪な事件をめぐる物語である。舞台となっているニーリーという街の住人たちが、この事件や犯人について語るときの素朴さ、滑稽さ、そして、優しさが柴田訳からひしひしと感じられるのだ。その魅力ゆえに、読者は笑みを浮かべて本書を読みながら、そして読み終えたときに、心が温かくなっていることに気付くのである。
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