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26 人中、23人の方が、「このレビューが参考になった」と投票しています。
5つ星のうち 5.0
執念深い調査と大陸ロマン,
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レビュー対象商品: 甘粕正彦 乱心の曠野 (単行本)
従来の甘粕像を覆すという意味では、角田房子の『甘粕大尉』が既に十分な仕事をしており、因習にとらわれず合理的で、人に優しい男としての側面が描かれている。それでも一般に甘粕につきまとう冷酷・残虐というイメージは重く、それは戦前期の陸軍憲兵隊、そして戦中の満州国が抱えた闇の深さを彼が一身に背負い、振り払おうともしなかったためでもある。甘粕を慕う人間は多かったが、同時に多くを語らない甘粕の闇を利用して、自身のみそぎを果たしていく人間も多かった。 『甘粕大尉』で、大杉事件については黒に近いグレー、真相は闇の中、という書き方をしているが、本作では真犯人を特定している。ただし、大杉殺害の下手人が誰であったかは本書の主題ではないし、事件は甘粕のその後の暗躍の入り口にしか過ぎない。満州で甘粕は、表と裏、昼と夜を股にかける帝王であり、彼の本来の能力が見事に発揮される。佐野はもう一歩踏み込み、新しい資料を用いて甘粕の人間くささを明らかにする。文章からは著者が前作以降、満州に魅了されている感じがよく伝わってくる。戦後日本は数え切れない満州の遺産と位牌の上に繁栄を遂げた。戦後日本のルーツを満州に探ること、そこで跋扈した多くの魅力的な日本人を記録すること、前作から続く佐野の問題意識であろう。最後に、甘粕の周囲の人間のその後を執拗に追っている。この執念と活劇的な描写が著者の真骨頂と言える。個人的には、甘粕本人よりも甘粕の妻、娘がその後辿った人生が何より興味深かった。
31 人中、27人の方が、「このレビューが参考になった」と投票しています。
5つ星のうち 5.0
いつものことだけど、タイトルも含め実に佐野眞一らしい一冊。,
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レビュー対象商品: 甘粕正彦 乱心の曠野 (単行本)
佐野眞一の評伝の特徴は、描こうとする人物が何をしたのかということに主題があるのではなく、彼(彼女)を突き動かしたものは何だったのか、といった事実の裏にある人間性そのものを描き出そうとする点にある。そして、著者は膨大な資料と格闘し、多くの関係者への取材を試みる。そうやって書かれる評伝はどれも非常に読み応えがある。ただ、そうして描き出された人物像が悪く言えば著者の思い入れが強く反映されることに加え文章も濃い(悪く言えばくどい)ので、好き嫌いが分かれる作家なのだと思う。 この作品もそうだ。例えば、“甘粕は底光りする内面の闇によって周囲の人間を魅了しただけではなかった。甘粕はその闇から放つ強烈な磁力で彼らの魂まで吸い尽くし、彼らを生ける屍のようにしてこの世に残し、満州の消滅とともにひとり逝った男だった(p324)”というような文章が随所にあらわれる。 そして、この引用した文章にある「磁力(あるいは磁場)」という単語は彼の作品に頻繁に登場する言葉なのだが、この言葉が佐野眞一の作品を最もよく表している。彼の作品になじめない人には、これが、単なる著者の勝手に思い込みさらに言えばこじつけに感じられるのではないかと思う。 わたしは、ノンフィクション作家は歴史研究家でも学者でもなく、もちろん事実(資料との格闘・関係者への取材)の積み上げが前提にはなるが、評伝という作品形態においては、その対象とする人物を作者がどのように解釈(それがたとえどう読んでもそれは思い込みだろうと突っ込みをいれたくなっても)するかは作者の特権であり、読者はその解釈の正誤を判断する前にそれをひとまず受け入れた上で作品として優れているかを判断すべきと考えているので、彼の評伝は読んでハズレタと感じたことはない(ただし、東電OL〜に代表される彼のルポ物は別。磁力「磁場)にこだわる彼のルポ物は実に読むに耐えない)。 この一冊も実に佐野眞一らしい作品だ。ただ、甘粕のパーソナリティを知る上での重要なファクターではあるが大杉事件の真相が主題ではなく、あくまで佐野眞一が描く甘粕正彦像が主題なので、大杉事件や満州で甘粕がかかわったとされる謀略そのものに関心がある人にはあまりお勧めできない。
18 人中、15人の方が、「このレビューが参考になった」と投票しています。
5つ星のうち 3.0
明治に生まれ、大正に翻弄され、昭和に死んだ男。,
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レビュー対象商品: 甘粕正彦 乱心の曠野 (単行本)
林真理子が浅丘ルリ子を題材に書いた「RURIKO」の冒頭で、満映時代の甘粕正彦の記述があり、それが思いのほか思慮深く情に厚い人物として描かれていたのが、保守的な林の筆によるものだとしても意外だった。甘粕と言えば、やはり大杉栄と伊藤野枝殺し、ファシスト、狂信的な国粋主義者との先入観があったからだ。今著は死後60余年、未だ一般には謎めいたベールに包まれている甘粕の光と闇、真実に肉薄するルポルタージュ。今まで、その人物像に触れる事が殆どなかった者にとっては興味深く読めた。本書の構成は大きく分けて、大杉事件と獄中生活以後、そして満州時代の3つ。膨大な文献、資料と多くの関係者へのリサーチから、その極めて複雑特異なキャラクターと、大杉事件や満州国建国まで近代史に残る事件の謀略の舞台裏を検証する形を取っている。歴史的大物から芸術家、右から左まで甘粕周辺の登場人物たちの多種多彩さに驚かされるが、読むほどに、その懐の深さと私欲には一切執着しない潔癖さ、稀代の謀略家であるにも拘らず、一度信用した人間は決して疑わず、結果を導き出せるなら相反する主義主張者も登用するといった人間性がクローズアップされていく。 とは言え、500頁近くの力作ではあるものの、淡々とも言える著述ぶりが一本調子な為、読み進める内に飽きがくる。“冷酷非道と思っていた人物が実は、、、”的なパーソナル的な人物論に収斂してしまう印象は否めない。時の帝国の権力組織の思惑に翻弄され続けたカリスマ的大物の数奇な一生を通じて、魑魅魍魎が跋扈した暗黒時代を照射するような試みを期待したんだけどね。
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