大分県国東半島の遺跡調査に従事し、環境歴史学の提唱者の一人である1953年生まれの日本古代・中世史研究者が、2004年に刊行した環境歴史学の概説書。環境歴史学とは荘園村落遺跡調査(圃場整備、つまり水田区画拡大と用排水分離で失われる水田・村落景観を遺跡としてとらえ、その総合的な記録保存を目指すものであり、010〜015頁に具体的な方法論が叙述されている)の過程で1990年代に考案された、多様な資料を通じてヒトと自然の距離を測る歴史学であり、災害などの自然から人間への働きかけと、人間から自然への働きかけ(開発)との双方に目配りをしつつ、両者の相互作用について動態的に研究する歴史学の一分野である。この方法を通じて得られる新たな歴史像の事例として、本書では河道の移動に伴う国東郡司による水路付け替えの事例、中世陸奥の村民の水源信仰に基づく世界観の事例、自然との闘争の結果10世紀以降に里山の原型が形成される中で、蛍がヒトの気持ちを代弁する存在と見なされてゆく事例、山の神の顕現としての大分の磨崖仏の事例、斐伊川の排水点として水の中に浮かぶことを想定して高くつくられた出雲大社本殿の事例、仏教の殺生禁断思想に基づく乱獲抑制による瀬戸内海の里海化の事例を挙げている。他方で、環境歴史学には文化財学としての側面もあり、非都市的な生活の場である歴史的環境の総体を遺跡と見なす(078頁)新たな遺跡(文化的景観)概念を提唱しているが、これには現地の発展を阻む都会人の傲慢という側面も付きまとう。本書ではこのように、歴史学の側面と文化財学の側面から、著者自身の経験を前面に出してこの新しい学問分野の意義を説明するが、具体的な資料操作方法の部分が私には最も興味深かった。