まず、私たちヒトの起源。すべてのヒトの起源はアフリカ大陸の断層の東側で2足歩行を始めた人類であることがDNA分析などで明らかになっているが、大陸の東側が上昇し、西側が沈下してできたこの大地溝帯の東側でのみ、ヒトはなぜチンパンジーと分かれて2足歩行をするようになったのか。
理由は雨。壁ができたことで、西側からの湿った空気が雨になって西側に降ってしまい、東側のケニアなどの高地は乾燥した。確かに雨が降り続けばどうしても体を前かがみにして内臓が冷えないようにするであろう。また、メスの胸には子がしがみつき、子がぬれないようにするために2足歩行になりにくかったのかもしれない。
2足歩行になると視界が開け、敵を早めに察知する知能が加速度的に発達し、またメスは子を腕で抱いて守るようになるので子孫の生存率が高まり、「出アフリカ説」の通り、遠くまで歩いて広がり、繁殖した。
その後、様々な文明の興亡があるが、衰亡の共通点は環境変動であるという。インダスの古代文明は、アーリア人の侵入で滅びるが、彼らのアグニ神は火の神で、彼らは森林を焼きながら東へ移動し、飢餓が多発したので釈迦による救済の思想が広まった。古代ギリシャ・ローマでは青銅器や船を作るために森林伐採が進み、土壌中の水分が減少して彼らの農法である天水農業が維持できなくなって征服戦争が頻発し、帝国の衰亡につながるキリスト教が浸透した。
その修道院は中世において大量の熱量を必要とするステンドグラスや金属の生産拠点にもなって森を破壊する。その果てでペスト禍が繰り返しヨーロッパを襲うが、その猛威はアルプス以北では抑制され、文明の中心が北上する。その理由は、アルプスに森が残り、ペスト菌を媒介するネズミを食べるフクロウとオオカミが生息し続けたからである。森から出ることが文明化であると人は信じてきたが、実は、森こそが文明を守ったのだと教えられる。
(上智大学教授 猪口 邦子)
(日経ビジネス 2001/09/03 Copyright©2001 日経BP企画..All rights reserved.)
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鼎談なので、引用文献が殆ど示されないのは残念ですが、星一個の減点に値するほどではありません。考古学、歴史書、文学まで及ぶ三人の知識の引き出しから、次々と明かされる歴史のファクトが、タイトルどおりの「環境と文明の世界史」をありありと示してくれます。
後で調べてみようと思って、面白いエピソードにマーカーをつけながら読んだら、本が真っ黄色になってしまいました。これからの参考文献探しが大変です(笑)。
というか、20万年前から現在までの! しかも、地球のあらゆる場所にわたっての! 気宇広大な対話の連続であり、てんこ盛りだと言ってもいい。普段、ちまちましたことばかり考えている人だったら、読みながら軽いめまいを覚えるだろう。あるいは、わけのわからない開放感を覚えるだろう。
ここで、私が「おお!」と驚愕したお話のいくつかを引用!!してみたい気持ちにも駆られるが(毒ガスの製造が人口の爆発を誘発したとかね)、まあ、そういうエピソードがすべて、の本なので書くのはやめときます。ただ、これくらいでっかいスパンでものごとを見ている学問分野はないと思われるのに、文学の話も自然に出てきたりします。新書の対話形式ということを考えると、これだけの情報量を詰め込んだ編集者のご苦労がしのばれます。
あと、この本が、スケールだけはあの『銃・病原菌・鉄』と気分的につながっていることを指摘しておこう。なんといっても、どちらの本も、扱っている時間や空間がメチャメチャ広い。たとえば、『銃・病原菌・鉄』でも、オーストラリアやユーラシアや南北アメリカ大陸に、大型の動物が存在しない理由を検証していた。つまりそれは、!!どう見ても、環境というよりは殺戮的な性格をもった人間による虐殺だったということを。そのことは、この本でも触れられています。
瑣末な生活に疲れたときに手にとってみるといい本だと思います。
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