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「生涯賃金の格差、家1軒分=5000万円」「技官の出世は局長止まり」(「第1章 文系の王国」より)と、ショッキングな事実から始まる本書は、一瞬理系のルサンチマンを連ねた本と錯覚しそうである。青色LEDで一躍話題になった開発者の権利のように、不当な扱いを受けているという事実は確かにあるのだろう。しかしその一方で、社会との接点の薄さや研究データ改ざん等のモラルハザードのような理系特有の問題もある。本書はそれらをえぐりつつ、さらに、理系教育のあり方、増え続ける博士の就職難、女性研究者の抱える問題、研究期間や費用の問題などの理系の現状をリアルに伝え、あるべき理系の未来像を描き出していく。章末の「課題を聞く」では、田中耕一さんら理系の第一人者たちに各章のテーマをぶつけている。
本書で言う「理系」は主に研究者を指しており、章によってその定義も若干揺らいでいるように感じる。それは逆に言えば、「理系」のステレオタイプが研究者の姿にあることの証拠でもある。理系として生きてきた人には共感を得つつ現実を見つめ直すため、これから理系として生きていこうとしている人には自らへの課題を明確にしていくための指標となるだろう。(大脇太一)
まず、日本社会は理系人を「黒衣」として利用し、時に無視してきたと指摘する。多くの企業を取り仕切るのが文系人であることは周知の事実だが、霞が関の官僚社会にさえ「技官の出世は局長止まり」という不文律が存在していると言う。また、ある国立大学では文系学部出身者との生涯賃金の格差が最大5000万円になり得るという調査結果を示す。
その一方で、米国を模範とする新たな動きを示す。「奴隷はもうごめん」というのが理系人の心の叫びであり、自らの発見や発明に関して「相当の対価」を求める理系社員の「職業発明訴訟」が増加している現状や、先進的企業の「報奨金制度」を紹介する。また、「大学研究室発ベンチャー」の現場で、「巨額の国費を投じて得た知財をため込むのではなく社会に還元することで大学は生き残る」という士気が芽生えつつあるとリポートする。
(日経ビジネス 2003/07/21 Copyright2001 日経BP企画..All rights reserved.)
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14 人中、13人の方が、「このレビューが参考になった」と投票しています。
5つ星のうち 5.0
続編にも期待。,
By 漆原次郎 (千葉県市川市) - レビューをすべて見る
レビュー対象商品: 理系白書 (単行本(ソフトカバー))
毎日新聞科学環境面の大型企画「理系白書」の2002年1月から翌年4月までの連載を、単行本のために加筆したもの。デスク以下、各記者の科学に対する情熱ぶりは相当なもの。記事のクオリティにもバラツキなし。理系の人に取材をして、各種データと絡めて、日本の科学技術の現状を伝える。とくに科学技術を仕事にしている人たちの現状(食べていけるか)をよく伝えている。その実情とは、「なかなか報われない」といったもの。 全体の調子はたしかに他のレビュアーが書かれているとおり、「応援」というよりは「憐憫」に近い雰囲気。新聞報道は批判精神があって当然だから、すべてが問題提起型なんだと捉えた。明るい調子のニュースばかり載っていてもつまらないだろうから。 この本を読むと、理系にとっては浮かばれない現状がこの国にはたしかに存在すると思えてくる。たとえば、官僚の事務次官(文系中心)と技官(理系中心)の待遇の差。または、大学院で博士号を取ったあと職にあぶれる「ポスドク問題」。さらには、女性研究者が受けるセクシャル・ハラスメントやアカデミック・ハラスメント(学問的差別)問題…。日本が抱えている問題をつぎつぎと晒していく。 いまも新聞紙上では「理系白書」の連載が続いている。これからも新聞は科学技術の現状を憂い続けてほしい。
56 人中、46人の方が、「このレビューが参考になった」と投票しています。
5つ星のうち 5.0
学者(若手)の感想,
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レビュー対象商品: 理系白書 (単行本(ソフトカバー))
学者として研究の最前線で働いている私には、この「理系白書」に記述されている事柄、まさに事実そのものです。しかも理系の私が驚くほど、「筋道だった」取材がされている。ノーベル賞受賞者から大学院生、ベンチャー企業社長、政治家にいたる数多くのインタビューを通して、丁寧に事実が積み重ねられ、そして核心を突く検証がされています。また問題を社会制度、教育制度、経済活動、グローバル化という多くの面からも見ている。その静かでプロフェショナルな物の見方と筆致がとても好い。特筆すべきは、問題点を単にあげつらうだけでなく(批判はだれでもできる)、その解決の糸口を提言している点で、そこがまた良い。力作。読み応えあり。科学者・技術者の実態に興味を持たれる一般の人だけでなく、日本の舵取りをする政治家、霞ヶ関の官僚に方々にも読んでいただきたい。 本文で「物事を正しく判断し決断するには、理系・文系関係なく、事実をありのままに見つめ、そして論理的に考える”力”が必要」とある。本書を執筆された方々は、世の中一般には”文系”と呼ばれる新聞記者の方々だけれども、本書の出来映えは、いみじくも理系・文系関係なく「筋道を立てて考える力」の大切さを示しているように思う。 追記:他の方のレビューを読んで思ったのだけれども、大企業の”傘”の下でぬくぬく仕事をされているかたには、あまり理解してもらえないようです。それが本書も指摘する問題点でもあるのだけれど。自ら責任を持って、世界の最前線で戦っている人、戦おうと思っている人。長い物に巻かれず独自に!戦っている人。日本で言えば「異端児」には、世間の風はまだまだ冷たいようです。そういう”元気のある人達”にエールを送ってくれるのも本書ですわ。
25 人中、21人の方が、「このレビューが参考になった」と投票しています。
5つ星のうち 5.0
客観的なデータに基づく説得力、現状認識はこれでOK。,
By GretaJutie "GretaJutie" (川崎市) - レビューをすべて見る
レビュー対象商品: 理系白書 (単行本(ソフトカバー))
私は大手電機メーカーのエンジニアです。理系は冷遇されてるって話はよく聞くけど、半信半疑でした。 本当の所はどうなんだろう、ウチの社長も理系だし、確かに私の給料は安いけど社内でもばらつきがあるし、と。 大学の同級生で、成績の大して違わなかった人たちが、銀行などに就職し、軽く倍くらいのお給料をもらっているのを横目で見つつ、「やり甲斐があるし」「面白いし」「人は人」とか思って今まできました。 この本には、客観的データがバッチリ示されていて、なるほど理系は冷遇されてる、と、よく分かります。 ただね、ここから先は個人的感想だけど、恵まれない境遇を人のせいにしているだけじゃ、やっぱり理系の将来は明るくならないですよね。
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