本書は、現象学的社会学の祖シュッツのより原理論的な著作よりも、もっと直接に社会のあり方を自身の立場からスケッチした著作。確かにそれまでの「社会学」とはかなり趣が異なる。一口に言って、コント以来意識的にも無意識的にも社会学を束縛してきた「自然科学のように厳密でありたい」という願いとも、意欲とも、コンプレックスとも取れるような無骨さが全く無い。優れた哲学や思想の書物が、「自身のスタイル」で縦横に描いたような自在さをもった作品だ。意識と社会、知識と現実、行為と世界、を何とか描き出そうとするその姿勢は、結果的にヘーゲルの「精神現象学」やサルトルの「弁証法的理性批判」を髣髴とさせる。それは、まさに従来の「社会学からの逃走」とも思えるほど「自由」だ。Hegel〜Contra Sociologyという本で、カント〜新カント派的なスタンスが社会学の視座を拘束してその限界の原因であることが指摘されていたが、本書はまさにそれを良い意味で示したようだ。本書を皮切りに新しい「社会学」が構想されたわけだが、しかし、残念ながら、いまでは「現象学的社会学」は存在しない。本書の応用編は「故郷喪失者たち」などバーガーの何作品かで展開されたが、本書を凌駕、発展させた実例は遂に見ることはできなかったと思う。なお、この学派は、決して「フッサール的な現象学」だとは思えない。知識社会学の可能性を示したまま尚今後の展開を促しうる良書だと思う。