『現代形容詞用法辞典』『現代副詞用法辞典』に続く「用法辞典」シリーズの第3弾である。体裁は前2著と同じB6判で700頁の大辞典となった。擬音語擬態語(オノマトペ)があるのは日本語だけと思い込んでいる人も多いが、本書の解説によると各国語にそれぞれ独自のものがあり、文字デザインなども含めてさまざまにあると言う。
本書は「擬音語・擬態語とは何か」という疑問からまずスタートする。現実の物音や音声、様子という具象を、擬音語・擬態語という抽象にするには5段階の表現があり、本書で扱うのはその第5段階のみ、すなわち抽象化された言語のみを扱うという。なぜこんな厳密さが必要かというと、高校の授業などでオノマトペを生徒に集めさせようとしてマンガを題材に選ぶと、とうてい収拾のつかない種々雑多なものが集められてくるからである。
本書によれば、マンガにある表現は擬音語・擬態語という「言語」ではなく、「映像」による対象の音や様子の表現、ということになる。「映像」であるからして、字体や色や書き方などすべてが必須要素であり、その表現を活字にしてしまっただけで別物になってしまうのである。
このようにして対象を厳密に絞りこんだうえで、見出し語を1064語選び、前2著とまったく同じ方法で、まず多数のイキイキした例文、次に詳しい説明、プラス・マイナスのイメージ、類義語との比較と続く。すべての例文にアクセント表示がついているので、用法の違いによってアクセントが変わる場合には、一目瞭然となる。
本書の意味記述がいかに詳細をきわめているか、次の一例(へどもど)で明らかだろう。
1.急に警官に質問されてへどもどしてしまった。
2.証人は後ろめたいことがあるのか、へどもどした口調で証言した。
3.奴は何か隠してる。へどもど言い訳してたもの。
4.若社長は全社員を前にへどもどと挨拶をした。
【解説】驚き・不安・興奮などのために流暢な発話ができない様子を表す。マイナスイメージの語。1は「する」が付いて述語になる。2は「した」が付いて、名詞にかかる修飾語になる。34は単独でまたは「と」が付いて、述語にかかる修飾語になる。主体が驚き・不安・興奮・懸念などのために心理的な平静を保てず、結果として流暢な発話ができない様子を表し、困惑・慨嘆の暗示がある。
「へどもど」は「どぎまぎ」や「しどろもどろ」に似ているが、「どぎまぎ」は主体が適切な応対ができない不安・驚き・懸念などの心理に視点がある。「しどろもどろ」は主体が非常に緊張しているか、やましいことがあるために内容・表現ともに流暢で明快な発話ができない様子を表し、混乱・焦燥・恥の暗示がある。
証人はへどもどしていた。(「あの」「その」「えーと」などを連発した)
証人はどぎまぎしていた。(落ち着かずにあちこち見たり体に触ったりした)
証人はしどろもどろになっていた。(核心部分で質問に答えられずごまかした)
巻末には前2著と同様、いろいろなマークのついた詳細な索引がついている。
「形容詞」「副詞」「擬音語擬態語」の3つの用法辞典によって、名詞・動詞以外の周辺的な語(副用語)がほぼ網羅された形で、しかもまったく同じ分析方法で記述されたことになる。
本書は日本語教育に資するのはもちろんであるが、これまであまり日の目を見てこなかった副用語の研究の1大トピックと言えるものではなかろうか。