本書は、「コミュニケーション的転回」について説明を加え、その発生の土壌を知るとともに、その目指すものや、それが社会に与える影響などを考えるための素地を形成しようとするものである。ここでの「コミュニケーション的転回」とは、「言葉(意味)が先に存在して、それを用いてコミュニケーションが行われる」という考えから、「コミュニケーションが先に存在して、その結果として言葉(意味)が生成される」というパラダイムに変化したことを指す。
「はじめに」は、本書の問題設定と構成について。
第1章「全体の見取り図」は、18世紀から現代までの思想的流れの概略について。本書は思想史の展開を「超越論的転回」、「言語的転回」、「解釈学的転回」、「コミュニケーション的転回」の4段階として整理する。
第2章「私たちが直面している問題はどのようなものか」は、社会的現象としてのコミュニケーション的転回について。裁判員裁判制度、政権交代、メディア・アートなどが取り上げられ、現代においてコミュニケーションが重要視されていることが指摘される。
第3章「コミュニケーション的転回の哲学的基礎」は、哲学におけるコミュニケーション論的転回を準備した諸理論・概念について。ソシュール、ウィトゲンシュタイン、ブーバー、レヴィナス、ハイデガー、バース、ガダマーなどが取り上げられる。
第4章「現代思想のコミュニケーション的転回」は、哲学におけるコミュニケーション的転回について。アーペル、ハーバーマス、ギデンズが取り上げられる。
第5章「コミュニケーション的転回の意義」は、哲学におけるコミュニケーション的転回の意義について、第2章で論じた社会現象としてのコミュニケーション的転回を引きつつ考察する。
第6章「現代コミュニケーション論概観」は、現代コミュニケーション論の学説とモデルについて。
第7章「コミュニケーション的転回の問題点」は、コミュニケーション的転回の問題点を指摘しているものとして、バウマンの「個人化」、オルテガ「大衆の反逆」、ランシエールのデモクラシー論などが取り上げられる。
「コミュニケーション論に初めて触れる読者」にわかりやすく説明するという著者の目的は果たされていると思う。ブックガイドや参考文献表もあり、さらに勉強を進めるのにも役立つ。とはいえ、問題点が全くないわけではない。自身の感想として、以下3点を挙げておく。
1) 本書は、パラダイム・シフトの展開を、個々の哲学者・思想家の業績に帰属させて説明する「偉人がつくった(による)思想史」である。そのため、転回が発生した社会的、経済的、文化的要因については検討されていない。
2) 本書は、コミュニケーションの個別的な様相を説明したものとして、いくつかの対人コミュニケーション論を取り上げている。しかし、それら個々のコミュニケーション論と本書で説明された転回とがどのように関連するか不明瞭である。哲学的議論と、社会学的、心理学的議論との間にはギャップがあるように感じられた。コミュニケーション論は転回の結果なのか。それともその表現なのか。
3) 本書は、コミュニケーション的転回が多くの分野で進行しているとしている。確かに本書を読めば、少なくとも哲学においてパラダイム・シフトが起こったことが理解できる。しかし、それが他分野でも同様に生じているかどうかは検討されていない。それゆえ、現代における転回をコミュニケーションという観点からのみ把握してよいかどうか疑問が残る。例えば、歴史学では、ハーバーマスの影響を受けて、公共圏に関する研究がなされてはいるが、それが歴史学における主流とはいえないだろう。