この本の表紙のデザインに引かれて購入したところ、内容の面白さに、思わず一気に読んでしまった。本書は我々にとって身近な「針灸」効果の謎に始まり、以下静磁場、睡眠物質、精神的ストレス、筋肉の収縮、記憶の実体、遺伝情報発現などの謎が解説されてゆく。いずれの章も、現在巷に氾濫している入門書とは全く異なり、筆者の歯切れの良い筆により、これらの謎が謎であり続ける理由が指摘されてゆく。このため、一見ばらばらで統一をとりにくい問題を扱いながら、本書を貫く著者の主張が浮かびあがってくる。これは、みずからの力で自然科学を生み出すことなく、欧米からの学問を輸入してこと足れりとした、我が国の宿阿にたいする批判である。筆者の鋭い筆致から考えて、この人は単なる解説者ではなく、一流の研究者なのではなかろうか、と思っていると、本書の第五章、筋肉の謎でこれが明らかになる。筆者は現在もこの研究分野重要な貢献をしている世界的な研究者だったのだ。この章の、筋収縮の仕組みが偉大な研究者たちによって解明されてゆく過程や、これに伴って起こった悲劇などは、世界的な研究者である筆者にしか書き得なかった本書の白眉である。
本書の他の章も、単に数々の謎を興味深く説明するばかりでなく、睡眠物質の謎については、研究のスタートとなる仮設に鋭い批判が加えられており、遺伝子情報の発現については、これまで無視されてきた細胞質の場としての役割が強調されている。また、静磁場の謎では、筆者が磁気治療具メーカーからの依頼でおこなった興味深い研究が紹介されている。
本書は一般の読者にとって身近な平易に説明する優れた一般向けの入門書であるとともに、現役の研究者あるいは研究者を志望する若い読者にとって多くのものを与えてくれる必読の書である。