本書は若手の人類学研究者が執筆者となり、書かれたものである。有斐閣アル
マらしく、章末には「文献案内」、部末には「コラム」というふうにテキスト
として使い勝手がよさそうな構成となっている。文章はもちろんわかりやすく
書かれており、読みやすい。
全17章の4部構成である。デュルケムやボアズ以来「未開」への関心をもって
きた人類学であるが、グローバリゼーションや開発、産業化の進展で「西洋・
先進国」と対比されるような「未開」の捉え方は困難になってきた。そこで
現代社会を問うという形で、新たな人類学の視座が生まれている。
これには、人類学だけにとどまらない新たな思想の潮流が関係している。
経済は人びとの社会関係に埋め込まれているというとらえ方であったり、普遍
的知識が具体的(状況依存的)知識に対して優位であるというとらえ方への批
判であったり、慣習や制度あるいはアイデンティティが「実践」を通した相互
交渉のなかで作られるという見方であったりというように、社会科学の分野に
おいては、「合理化の進展」としてとらえたのではこぼれ落ちてしまう近代社
会あるいは現代社会の側面に注目が集まっている。そういった流れのなかに本
書に掲載された各研究は位置付けられるだろう。
章ごとに執筆者の問題関心とフィールドワークによる質的なデータの提示、そ
して章の最後にはまとめと今後の研究課題が述べられている。各章12〜15ペー
ジぐらいで簡潔にまとめられているので、目次をみて気になったものから読む
のもいいかもしれない。
本書で扱われている内容や問題関心は、人類学に並行して社会学、教育学、経
営学、認知心理学といろいろな学問領域で語られているので、人類学に興味を
もつ人でなくとも参考になる一冊になっている。
同様の関心をもって書かれた専門書は先行していくつかでているので、参考ま
でに挙げておく。
○田辺繁治・松田素二編,2002『日常的実践のエスノグラフィ』世界思想社.
○茂呂雄二編,2001,『実践のエスノグラフィ』金子書房.