世には数多のベクトル解析についての書籍が出回っているが、お世辞にも良い本が多いとは言えず、その大概は極々限られた狭い世界での議論しかなされていない。中には誤ったベクトルについての認識さえ与えてしまうモノさえもある。もちろん、しっかりとした本もあるにはあるのだが、格式が高い本ばかりで思考や知識が十分に備わっていない者にはやや荷が重い。
そのような中でこの本のように学の浅い者でも読み進めることができ、且つ読み進めていくことで己が認識を広げてくれるモノが世に出てくることは喜ばしい。
この本が提供せんとするベクトル空間界に関する眺望は、理論物理学の認識についても重要な基礎の一部を担っているといえるものであり、読者の数学における抽象的・普遍的思考を鍛え上げてもくれる。加えて、数学的理念界の壮麗な領界の一部へと案内してくれるいい本でもある。
ベクトル空間が持つ純代数的構造や計量構造、そしてそれらが織り成す豊かな理論に加え、曲線論や場の理論を視野に入れた理論が展開される。
最終章には物理学理論の絶対的・本質的構造に興味のある人々に役立つことを願って、物理学への応用が取り込まれている。
数学、物理等のいわゆる理科系の学問をやる上で、ある程度の抽象思考ができるようになるに越したことはない。
解析概論やランダウ・リフシッツの理論物理学教程のように、これもまた読もうと思えば学部1年でも十分に読みこなせる本であるので、できる限り早期のうちに手を出したい本である。