本書は現代アートに関する新書だが、ただの現代アートマニュアルではない。サラリーマンをする傍らコレクターを続ける著者が著した、実際に作品を所望している人のための現代アート“購入”マニュアルだ。
「買うための本」だから、その視点からして独特だ。プライマリーギャラリーとセカンダリーの違い。あるいはアーティストとギャラリーはいったいどういう関係か。もしくはギャラリーにとって銀座や京橋に居を構えることがいかに誇りであるか、保存はいかにするかなどなど、あなたは知っていただろうか?そういった、アートの話なのに実は今までなかなか語られなかった事柄にまで話が行き届いているため、別にコレクターになるつもりのない読者でも、なるほどと楽しめる読み物のはず。
ただ、コレクター志望の人(特に著者と同じサラリーマン)の多くが、「昼食を抜いて節約したり、真冬に夏のズボンを履いて出費を抑え」ていた著者の涙ぐましい努力を知り、その道を断念するかもしれない。ですます調の丁寧な文体だが、行間からはコレクターとしてのプライドと、あなたはここまでこだわれるか?という読者への挑発の声も聞こえてくる。それくらい著者が現代アートに人生賭けているということだ。
しかし、どうも「現代アートを買おう!」と叫ぶ動機がよくわからん。「同時代性」だとか後々の市場価値が上がる(僕はこの点を訝しく思っている)だとか、贋作を掴まされる心配が低いなどいろいろ並べているが、それでは著者のお祖母様が言ったという「美術作品は個人が持つものではなく、みんなのものであり、美術館で見るもの」という主張を何ら覆すことにはならない。
結局この人は現代アートを「集めたいから集めている」のだ。なぜにそういうプリミティブな欲望を素直に述べないのだろう。逆に言えば、その欲望がなければこんな血の滲むような金策に四苦八苦できないわけで、そこで変な理屈を捏ねなくても別にいいのにと、評者は思った。