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いったいイスラム原理主義は、どのような軌跡をたどって「9.11テロ」に行き着いたか。著者は、アラブ社会思想が2つに分極化した「1967年」を起点として、その道筋を跡付けていく。この年6月、イスラエルの電撃作戦によってエジプト・シリア・ヨルダン軍が撃破された。いわゆる「六日戦争」だが、この決定的敗北を画期にアラブの知的状況は「危機の時代」を迎える。つまり、アラブ現代思想は、敗北の原因を「人民勢力」の疎外に求める思想と、イスラムの倫理に反した腐敗政治に求める思想に分極し、前者は人民解放闘争を唱える急進的マルクス主義へ、後者は過激なイスラム原理主義へと伸長していく。 しかし、社会主義イデオロギーは事実上機能しなくなった。著者は残されたもう一つの思想である「イスラム主義」の非現実性を、コーランと「ハディース集(ムハンマドと教友の対話)」の今日的解釈にメスを入れながら丹念に摘出する。そして、現代アラブ世界にコーランの「終末論」と現代的「陰謀史観」のオカルト的結合の出現を見て取り、これを「危険な兆候」と警告するのである。
著者が本書の冒頭でいみじくも言っているように、「9.11同時多発テロ」のあと、無知や誤解にもとづいた荒唐無稽な議論が信頼度の高いメディア上にも現れ、「どうせみんなも知らないのだから、なにを言ってもいい」という「自称アラブ通」のアラブ論、イスラム論がまかり通っている。まさにそういうイスラム論の悪影響を案じたのが、この本を書いた動機であるという。本書の内容の大部分は、著者が「大学院生時代に行った調査と資料収集」にもとづいているということだが、アラブ思想の地層深くボーリングのパイプを下ろした観察と、アラブ社会の「時代の気分」の鋭敏な嗅ぎ分けが見事である。(伊藤延司)
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第二部では旧来の終末論や陰謀史観、外来のオカルト思想などの総体としての現代のイスラーム終末論が描かれており、現世的な解決の放棄に起因するこうした「終末論」に筆者は危機感を覚えている。
近代西洋社会が抱える様々な矛盾が露呈してきた今日、イスラーム社会の西洋的な価値観を相対化しうる可能性は注目に値する。だが、昨今の、とくに9・11テロ以降のイスラームについて論じられた本の多くは、過度にイスラームに同情的であるか、あるいは理想化しすぎているように感じていた。そうした中でイスラーム社会の行き着いた「思想的袋小路」を詳細に描く本書は異質であった。現実のイスラームを直視し、理解した上で対等なパートナーシップを築いていくことこそが「異文化理解」であり、本書は「異文化理解」への大きな指標になる。
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