松谷みよ子。『いないいないばあ』、モモちゃんシリーズ、オバケちゃん、など小さい頃から親しんできた。ごく子どもの頃は何も疑問無く、ただ楽しく読んでいたそれらの作品。印象が変わったのが『二人のイーダ』を読んだ時からだ。
太平洋戦争をはさみ、約20年の年月と場所とをこえて不思議につながる二人の「イーダ」の話は悲しく美しく、辛くしかし希望が残された話である。その後、いくつかの作品を読むうちに(あるいはモモちゃんシリーズやオバケちゃんを読み直す中で)、松谷みよ子の作品が、単純に優しくて楽しいおはなしではなく、もっと複雑な、往々にして不気味さを含んだものであることに気づいていった。
なぜ彼女の作品はそうなのか?この疑問に答えてくれたのがこの本である。
それは単純にこの作家に戦争体験があるからだけではない。勿論この本の中には戦争をめぐる人々の「語り」「怪談」「言説」が多く含まれている。しかし、松谷みよ子にとって戦争は非常に大きなテーマではあるけれど、それよりももっと大きなテーマの中に含まれる一要素にすぎない。松谷みよ子にとってもっとも大切なもの、それは「名も無い」人々の「くだらない」言い伝えであり、そこに秘められている、人間の原初的な感覚・感情である。その意味で、松谷みよ子は作家であると同時にある種の民俗学者なのだ。
この本を読んではじめて合点がいった。経歴的には文筆を始めた方が先のようであるが、不合理で、謎に満ちた人々の言説こそが彼女をして「物がたり」をさせることになったのであり、だからこそ彼女の作品には底知れぬ不気味ともいえる力、子どもにとって最も親しく大切なメッセージが含まれているのだと。
なお、この本は松谷みよ子自身ががもっと詳細に著したかずかずの著作が元になっている。巻末にはそれらこの本の「原典」ともいうべき作品名や、その他の著作者の参考文献が記載されている。