まずこの本の姿形のよさを賞賛したい。むろん単行本の容姿についてであり、文庫は言わずもがなであろう。帙の色合いや装飾、そして、引出された書の軽やかな厚みと全体の色合い、心憎いほど釣合がとれている。誰が按配したのか知らないけれど、達人の仕事であるに違いない。 その書の中身はと言えば、これはもう開高健のけれんみ横溢、才気縦横の言葉の綾錦、しかし弛みや緩みはどこにも感じられず、読んでいて欧羅巴古典派の楽曲が聞えてくるような素晴らしさである。特に最終章の物語が出色。単なる作者の願望を語ったものか、それとも事実に基いた回想なのか、こういう興味は外道とはいえ、気になるところ。 思えば、文章の輝きだけで読者の興味をつなぐ作家は、戦後、開高をおいて一人もいなかった。!その唯一の作家がもはやこの世にいないという事実は何をおいても惜しまれる。