まずはシチズン・ドッグ。ことさら「タイの映画」と構える必要もなく、冒頭からゆったりとした作品の世界に引き込まれていく。俳優の魅力もさることながら、色遣いなどの映像処理とバックに流れる音楽、何ともいえない間の取り方が心地よい。
人間は常に手の届かないところにある何かを探し求めているのだが、本当に大切なものは身近にあり、しかも探すことをやめたときにそれは見つかる。その何かを尻から生える「シッポ」に象徴させた点も興味深い。タイには「シッポ」に関する伝承があるのだろうか。そして、空から降ってきたヘルメットのために死んでしまったバイクタクシーの運転手や、転生してヤモリになったおばあさん、幼児の姿をした成人女性など、ポッドとジンの主役以外も面白い登場人物がいっぱい。缶詰工場は「モダンタイムス」を思い起こさせ、バンコク市内に山のように積まれたペットボトルの山は「デイ・アフター・トゥモロー」や「ドラゴンヘッド」などの終末の地球を連想させる。プラスチック反対運動の描写は環境問題への取り組みに対する風刺のようにも思えた。何よりふるっているのはジンが長年探し求めてきた「謎の本」の正体。大切なのは結果ではなく、過程であるということでもあるのだろう。そして最後はハッピー・エンド。とにかく、あれこれ見所、考え所があり、退屈させない作品である。
次はヌーヒン。「フェーンチャン/ぼくの恋人」の監督による、タイの人気コミックを映画化した楽しい作品。冒頭のアニメーション混じりのドタバタも、アジア映画を見慣れてくると抵抗感も全くなく、ヌーヒンの妄想の中のダンスシーンはボリウッド映画に匹敵する躍動感がある。吹き替えを使っているのだろうが、歌って踊るヌーヒンがばっちり決まっている。
何より、この年齢不詳の天然少女ヌーヒンの存在感がすごい。ヌーヒンを演じたコムグリット・ドゥリーウィモンもタイ東北部出身で、彼女の方言には字幕がついたという話もある。どう転んでも美少女ではないのだが、だからこそ魅力的。ストーリーは大人向けとは言い難いものの、ヌーヒンが働くミルク姉妹の家族にも悪い人はおらず、ストレスは溜まらない。ヌーヒンが敬愛するミルクの危機にも、善悪の構図がはっきりしているので何も悩まずにヌーヒンを応援しながら見ればいいのだ。技ありの1本というところか。