蒼穹の昴を読んでから手をつけないと、最初からなんとなく中途半端な感覚を受けると思います。つまり著者の静かな意図としては、蒼穹の昴の読者が次に読む、という前提があって仕上げた作品だろうと考えられます。もちろん単品として読んでもそれはそれでショートミステリーとしてのおもしろさはありますが、なにしろ登場人物のほとんどすべてが蒼穹の昴出身者ですから、やはりあの超長編を押さえたうえでページを開いたほうが取っ掛かりはいいでしょう。
しかし逆に、蒼穹の昴のペースとノリのまま無邪気な期待でページを開くと、誰もが確実に失速感を味わう事必至です。物足りないのです、内容もストーリー展開も。そして、物足りないままに終わってしまいます。ちょとした不完全燃焼感が残るかもしれません。
西太后との政治対決に破れた光緒帝の寵姫である美しい珍妃は、清朝帝国崩壊寸前の混迷を極める紫禁城の片隅で、何者かの手によって井戸に投げ込まれ暗殺されてしまいます。これは史実で、井戸は現在でも残っています。また、珍妃の肖像も残っているので、興味のあるかたはインターネットで検索してみてください。涼やかな切れ長の目が美しい姫です。
しかし、現実にわかっているのはここまで。西太后の指示による暗殺という噂は絶えないものの真実は依然として闇の底に沈み、判然としていません。その謎の部分に焦点を当てて、蒼穹の昴メンバーたちがひとり語りにそれぞれの思いや知っている事を述べ合い、その話がまたいちいち食い違ってゆく、というミステリーオムニバスのような形式で本書は進みます。
そして著者なりの美しい結果には違和感を覚えるかたも少なくないでしょう。ただ、現実として謎のまま解き明かされていない史実に一応のまとめをつけるとなると、やはりこうならざるを得ないのかもしれない、とも感じつつページを閉じました。皆さん、どうお思いでしょうか・・・。