選んだ素材も抜群でしたが、加工の仕方も素晴らしかったと思います。
かいつまんで言ってしまうと、理想主義者の為政者符堅(前秦)が、王猛という不世出の宰相とともに民族の融和を唱え天下を目指し、宿願を果たす直前にすべてを失うといった物語なのですが、なかなかに奥が深い。あくまでも理想を追求し、それゆえに生じる現実との差に苦悩する符堅、そして主君の理想を誰よりも理解し、その実現に力を尽くしながらも徐々に生じる主君との溝を感じずにはいられない王猛…。そして鮮卑族の旗頭として常に自立を疑われ、或いは期待され続けながらも、符堅への義理を守り続けようとした慕容垂。
登場人物を減らし、時代を区切ったことが功を奏したのか、処女作「李世民」と打って変ってキャラクターが際立ち深く感情移入できました。(「李世民」は小生なりにおもしろかったのですが、書きたいことを整理するので手いっぱい、という感じがありましたので)
小生は符堅という人物はただの夢想主義者に過ぎず、運よく王猛という宰相に恵まれたために天下統一目前まで上りつめたに過ぎないと評価していましたが、無学者の浅はかさを痛感しました。
歴史にifはありえませんが、それでも王猛の寿命があと10年あれば…との思いにとらわれたのは筆者の術中にはまってしまった証拠でしょう。
多少符堅を美化しすぎな気がしないでもないのですが、小前亮氏の作品中ではベストの作品ではないかと思います。