文献史学や民俗学を判断の補助としつつ、考古学的物証に軸足をおき、合理的に日本の古代の風景を描き出す。
学術文庫なので、『難しい内容なのだろうな』と思いつつ購入したのですが、いい意味で期待を裏切られうれしい限りです。
著者の説明は、非常に丁寧で、私のような素人にもわかりやすく、図版や地図などの資料も豊富で、親切です。
取り扱う時代は縄文の末期から古墳時代の初期なのですが、メインは弥生時代になります。
まず、稲作や環壕と環濠を主軸に、縄文から弥生への移行を、東アジア規模のスケールで推理します。
次に、弥生時代です。
後の時代に奴国や伊都国と呼ばれる地域(とその周辺)を、畿内、出雲(山陰)、吉備(瀬戸内)との比較を交えつつ、ほぼ考古学的物証のみで、非常に繊細かつ大胆に描き出します。
これがまたすごい、時代ごとの状況が、定点観測的に、非常に克明に描き出されていて、目に浮かぶようです。
天気のよい休日には、ぶらりと遺跡探索に出かけたくなる気分になりました。
福岡市と糸島半島(とその周辺)に土地勘がない人が、置いてけぼりにならない様に、遺跡の分布状況を記した地図などもあるので、親切です。
銅矛、銅鐸、銅剣といった祭具の出土具合から、民俗学の助けをかりつつ、あくまで考古学的な見地から、各地域(主に筑紫、出雲、吉備、畿内)のマツリとマツリゴトについて、大胆に推論しています。
そこにイデオロギー的偏りはなく、あくまて客観的推論です。
なにかと話題になることもある、倭国大乱についても、考古学的に解明してくれます。
高地性集落の役割が北九州のそれとそれ以東では違う点を指摘した上で、3段階の時代区分を与え、大乱の実像にせまります。
また、北九州でしか見つからない受傷人骨に関しても、なるほどと納得させられました。
感情的な議論になりがちな邪馬台国ですが、現時点の考古学の成果から、ヤマト説をとっています。
しかし、『畿内優越主義』とは、やんわりと決別し、考古学的見地から、もっと緩やかな部族的国家連合ではなかったのか、と推論しています。
また、九州説など、畿内説以外を否定もしていません。
その上で、古墳時代の姿を、駆け足ながら、畿内のみに固執することなく広範な地域について、描き出しています。
考古学的物証をもとに、かつ合理的に推論されているので非常に説得力があります。
また、考古学からは、なかなか判断出来ない場合、素直に『判りません』というか、『大胆な推論ですが』などの断り書きをいれて推論する著者の正直さ、いさぎよさも好感がもてます。