とにかく、セット、衣装、美術の壮麗さに度肝を抜かれる。「単騎、千里を走る」では控えていた、チャン・イーモウ監督らしい色彩美の追求が極限まで徹底された作品である。本作で追究する色彩は、菊の花の黄色及びそれに通じる黄金色。「始皇帝暗殺」やチャン・イーモウ監督自身が「HERO」の撮影で用いた巨大なセットの広大な広場を300万本の菊の花で埋め尽くす場面、黄金の甲冑の兵士が駆け巡る場面のスケールの壮大さには目を奪われる。そして宮殿も黄金尽くし。600本の金の円柱すべてに菊の紋章を施しており、王と王妃の黄金の衣装、その他華麗な衣装は数え切れず、王宮の床に敷いた絹の絨毯は1キロ・メートルに達したという。菊、黄金は唐末に大乱を起こした黄巣が自分を認めない社会を恨んだ詩の中の句「満城尽帯黄金甲」を連想させるものであり、本作の原題も「満城尽帯黄金甲」である。菊といえば重陽の節句(九月九日)ということで、盛唐の詩人王維の有名な詩も引用されており、中国史好きにとっては嬉しい作品だ。しかし、そういう歴史的背景に通じていなくても本作の面白さは十分伝わるだろう。
ストーリーは、革命前の資本家一家の愛憎を描いた、中国では有名な現代劇を五代十国の時代に移植し、少し手を加えたもの。仕掛けの派手さにどうしても目が行くが、アジアの有名俳優の演技合戦、特にチャン・イーモウ監督と久々に組むコン・リーの冴え、チョウ・ユンファの貫禄は見ものだ。ただ、同じ歴史物でも、「HERO」のように見終わった後に心に響くものが少ない点が惜しい。
それでも私にとって本作は「HERO」後のチャン・イーモウ監督作品では一番面白かった。華麗な歴史娯楽作として超一級の出来である。本作とは離れるが、チャン・イーモウが監督する北京オリンピックの開・閉会式も歴史に残るイベントとなることを期待したい。