近年、散見される成功体験に基づくハウツー本は読み終わると
どこか興醒めしてしまう。無論、それらの本には、その著者が築いた絶対的なセオリーの
数々が書かれているのだが、どうしても他人事のように思えて心に残らない。
それは、著者に関する知識不足が原因かもしれないし、また事例が浮世離れしているせいなのかもしれない。
しかし、この「王の道」は会社組織でのリーダーシップやコミュニケーション方法への教唆が
日本の国民的スポーツ“野球”、そして、国民の誰もが知っている人物、“王貞治”を通じて、
語られているため、ひとつひとつのエピソードや言葉がずっしりと心に響く。
この本に登場する王貞治は、ちょっと意外である。
本塁打世界記録、セ・パ両リーグでの優勝監督、そしてWBC世界一。
その野球人生から、時として孤高の存在として捉えられてしまう彼に、
実は我々が知らない「人間 王貞治」が存在することを教えてくれる。
相手への優しさ、気配り、思いやり。そして、王は、思いのすべてを言葉で伝えようとするそうだ。
個々人の価値観や働き方が多様化する中で、組織としてのチームワーク力が求められている今日、
だからこそ、この本に書かれている「他者を思いやるこころ」を大切にすることは、
日本人が育んできた古きよき精神性に立ち返るひとつの試みになるかもしれない。
まず相手を受け入れる、そして思いをしっかりと言葉で伝える。
この本に出てくる王が発する言葉やにおいは、どれも温かい人間味に溢れている。
きっと著者は、10年という長きにわたってプロスポーツ記者として王を追い続ける中で
世間の王に対する印象と実際に触れた時の印象の違いに驚いたのだろう。
そして、この本のサブタイトルにある
「“王貞治”を演じ切るということ」に興味を持ったに違いない。
著者と王のエピソードだけでも、伝わってくるぬくもり。
もちろんビジネス書としても多いに推薦されるところだが、
いま少し心が疲れ気味の方にもぜひ読んでいただきたいと思う。
著者の父親を思慕する憧れに似た眼差しと、王の娘を気遣うやさしさに似た言葉の数々。
本編は、そんな父と娘の穏やかなやりとりが続いているようで、
一通り読み終わると心にほっとした温かいものが残る。