タイトルからして、あぶないなという予感におびえつつ、読み進める。湿度の低いパリの空気のようなからりとした文章とは裏腹に、こちらの胸には湿った不安がざわざわ広がっていくばかり。パリでの、同居の恋人との軋轢。類焼で部屋も愛猫も失い、文字通り彼女は無一物で焼け出される(当然花瓶も失ったため、彼女は野菜を花器にすることを思いつき、あのスタイルが誕生したらしい)。
それからウンチビと出会い、この黄色いオス猫だけを相棒に、東京での暮らしが始まる。マルチなスタイリストとして大活躍しながらも、ウンチビと二人(?)でひっそり過ごす大つごもりがあったとは…… 。『クウネル』創刊号のカバーを飾っていたベッド、ベランダが異常に広く、片面全部が窓になったあの部屋が目に浮かんでくる。
ペットの飼い主には、自分をその動物の親だと考えている人も多いが、彼女は自分を「ねーちゃん」と呼んでいて、すこやかな距離感だと思った。でも、一見淡々とした文章の行間から漂ってくるのは、強がりそうだけれど、ほんとは寂しがり屋の酒豪の姉御と、血のつながっていない義弟との、微妙で濃密な共同生活(読み込みすぎ?)。
どこまでが本当か、あるいはどこかにフィクションはあるのか、「あとがき」と称する文章を加えて、言い訳もしない、手掛かりも残さない猪本さんは、りりしいハンサムガールだ。
おいしそうなレシピにも、草木の名や色の表記にも漢字が多用されていて(ハルジオンって春紫苑と書くのか!)、フランス仕込みのエスプリのきいた文章とのミスマッチも効いている。
がんが原因とはいえ、天寿をまっとうして逝ったウンチビ。そう、物語に出てくる猫はみんな死んじゃうのだ。不死身の猫はいないのかな…… 。そう思いつつ、そっと本を閉じた。