64歳で定年を迎えるまで働き続け、その間に生活した住まいで数匹の猫と出会う星川葉子さん。文学好きな葉子さんは、図書館で借りた岩波書店の『中国詩人選集』を読んでいて梅堯臣(ばいぎょうしん)の詩「猫ヲ祭ル」に目がとまる。それは五白という猫を飼い、亡くしたときの気持ちを書いたもので、これがなんともしみじみする。
葉子さんは、杉並区に55年住んでいて、そのうちの40年は叔母の家で、その後15年はアパートで暮らしていた。そのどちらの暮らしでも猫とはひとつ屋根の下ではなく、顔見知りくらいな野良猫や「ブス」という猫と関わりをもつ。それからすこし広い家に引っ越し、姪から訳ありで猫をゆずりうける。
葉子さんと猫たち、ブス、アトム、ナイルの関わりが、体温を感じる文章でじんわり心をあったかく、時につめたくする。「生きものの、柔らかなぬくもりから伝わる交流」――姪夫婦、猫の先生、梅堯臣(ばいぎょうしん)の詩から連想する風景、自身が空襲にあった当時のこと――が小説からたちのぼってくる。
いい小説です。