ファンタジックな「嫁取りもの」。
普段はあまり好んで読まないジャンルなのですが、作者が樋口美沙緒さんということで、よもやハズレはなかろうと買ってみました。
いやもう、ハズレどころか・・・。私には大当たりでした。
10歳の時に雪山で遭難し、狗神に命を救われた比呂。
その見返りに、20歳になったその日に狗神に強引に攫われ、衰えた狗神の神気を保つために伴侶として無理やり抱かれることに。
その理不尽な行為への怒りと、病に倒れたたった一人の肉親である祖母の安否が気がかりで、反抗的な態度を取る比呂と、「裏切り者の人間め」と比呂には身に覚えのない言葉を口にし、苛立ちをあらわに比呂を抱く狗神。
祖母のもとへ帰るためには、狗神本人ですら忘れてしまった彼の真名を当てる以外なく、見当もつかない比呂は悶々とするばかり。
しかし狗神の眷属である藤と茜の話を聞いたことで、比呂は狗神の気持ちを知りたいと思うようになり、そんな比呂に狗神は戸惑った様子を見せながらも、頑なだった二人の関係に小さな変化が現れます。
そんな中、突如現れた放浪の神、八咫(やた)と、その連れの鈴弥。
なんと鈴弥は50年前、狗神の伴侶だったこともある人物で、この二人が良くも悪くも物語を動かすきっかけになります。
八咫にそそのかされての逃亡劇。
そのさなかに知らされた祖母の死をめぐる、狗神との確執。
狗神をなじる比呂を見かねた藤が涙ながらに告げる狗神の真の姿。
それを知り、これまで相手を理解しようと努力することをしなかった自分に気づく比呂。
再び歩み寄る二人、しかしそこに影を落とす鈴弥の存在。
そしてその鈴弥がきっかけとなって訪れるさらなる試練―――。
あれよあれよと思う間もなくくるくる変る展開に翻弄されっぱなしでしたが、それでいて雑多な印象を受けないのは、やはり樋口さんのストーリー構成の緻密さゆえでしょうか。
その流れの中で、狗神の神力が衰えた原因、人間を裏切り者と呼ぶその理由も明らかになっていきますが、その書かれ方も非常に巧みで、狗神の抱える苦悩がストレートに胸を打ちます。
現代では忘れがちな、神への畏れと信仰。
神を信じ、敬い奉ることで、神からも愛され守られるという、昔の日本では当たり前だった精神世界。
狗神と比呂の関係は、まさにその象徴のようです。
最後、幾多の苦難を乗り越えようやく想いを通じ合わせた幸せそうな二人に安堵すると同時に、日本に数多いる八百万の神様たちについ手を合わせたくなってしまった自分は、相当このお話に感化されてしまったようです。
もちろんラブストーリーとしても秀逸で、Hシーンも充実。
文章も読みやすいし、イラストも美麗です。
全力でお勧めします。
以下下世話な余談ですが…。
終盤、二人が愛し合う際に狗神が比呂に施した狼の神ならではの愛撫テク(?)がかなりそそります。
樋口さんの既刊、「愛の巣へ落ちろ!」の際の攻めのプレイを彷彿とさせますね。あの時の興奮がよみがえりました(笑)。
それから今回、いわゆる作家買いということになりますが、もし作者が樋口さんじゃなくとも、書店でこの本のオビを見たとたん、購入してしまった可能性大です。
狗神のとあるセリフがキャッチコピーとして使用されているのですが…心臓わし掴みにされました。
本文で通して読むとそれほどでもないのに、その部分だけがクローズアップされるとこんなにもインパクトがあるとは…びっくりです。いや、私だけかも知れませんが。
気になる方はぜひ、直接お手にとってご確認を。