結論から言うと、どの短編も傑作の大当たり!
感情を排して淡々と語られていくが、ひじょうに印象的で、読後にも余韻にひたれる。
・「フェーナー氏」Fahner
実直な老医者が、悪妻を殺した理由は?
・「タナタ氏の茶碗」Tanatas Teeschale
日本人実業家から、金庫を盗んだチンピラ。
中に入っていた家宝の茶碗だけは、いくら出しても取り戻したい被害者。
それを耳にした街の顔役は、チンピラたちを傷めつけるが……
・「チェロ」Dee Cello
資産家のもとに生まれながらも、父を嫌い、二人きりで生きる姉弟。
姉はチェロの才能があり、音楽家を目指すが、弟が事故で脳に障害が残り……
・「ハリネズミ」Der Igel
強盗で捕まった、犯罪一家の一人。
馬鹿だと思われている末っ子は実は天才で、兄を助けるために法廷で嘘をつく。
・「幸運」Gluck
戦争で、ドイツに密入国した女性。
売春の最中、相手が心臓麻痺で死んでいしまう。
慌てた彼女は、同棲している恋人が帰ってくるまで外で待つことにするが、
入れ違いで彼が帰ってきて、死体を見つけてしまう。
このままでは、彼女が逮捕されると考えた彼は……
・「サマータイム」Summertime
ホテルで、不倫相手を殺した容疑で捕まった実業家。
証拠は彼が犯人と示している。
それを崩すために弁護士が見つけた証拠の穴とは?
・「正当防衛」Notwehr
駅で二人のネオナチに絡まれた男。
彼は全く動揺することもなく、二人を殺す。
正当防衛の適用をするべきだが、刑事は、彼の身元を証明するものが皆無なのが気に入らず……
・「緑」Grun
羊を殺し、眼球を繰り抜く伯爵の息子。
父親が農夫に弁償していたのだが、近所の少女が行方不明になり……
・「棘」Der Dorn
彫像「棘を抜く少年」の棘がどうなったのか気になってしょうがない博物館警備員。
少年の足は化膿しているのではなかろうか?
彼は代替行為として、靴屋にの靴に画鋲を入れるいたずらをすることによって、不安感を解消した。
数十年が経ち、定年間近になり……
・「愛情」Liebe
彼女の背中をナイフで切ってしまった青年。
事故と証言するが、真実は……
・「エチオピアの男」Der Athiopier
強盗直後に、逮捕された男。
彼はエチオピアの貧しい村を救った名士だというのだが……
様々な犯罪、というより様々な人生の物語。そこには一つとして同じものは存在しない。シンプルな筆致なのに、そこに描き出されるのは、血肉を備えた犯罪者たちの人生。
個人的には京極堂シリーズとちょっと感触が近い印象。どんなに奇妙に見えても、彼らの人生、行動と思考を丹念に追うことにより、通常と異常(犯罪行為)の溝が埋まり、その奇妙さは納得出来る理由に落ち着く。
弁護士が作者だから被告側の視点なのは当然なんだけど、特徴的なのは、事件の真相やいわゆる正義が、ここでは求められないこと。事件そのものよりも、依頼人の権利を守り、最善をつくすことが大事。だから、解決しないまま終わる物語もある。
奇妙な味、トリック、悲劇、ハートウォーミング、謎、と短篇集としても多彩。
みんないいんだけど、あえて選ぶなら「ハリネズミ」「正当防衛」「緑」「棘」「エチオピアの男」かなぁ。う〜ん、「サマータイム」も……
今年ベスト級の、オススメ!