昭和29年に刊行された単行本を文庫化したもの。
伊藤整、川端康成、幸田文、志賀直哉、林芙美子などが戦前・戦後(昭和の初期から20年代)に書いた随筆が収められている。
文豪というのはけっこう広い家に住んで、高価な犬を飼っていたものなのだな、ということはともかく、当時の人々の犬観というものがわかって面白い。そのころは、犬を飼うことを「畜犬」と言っていたのですね。
作品として優れたものは多くなかったけれども、阿部知二という人(知らない人だった)の小説ふうの作品が味わいがあってよかった。
ぜひ入れてほしかったのは、太宰治の『畜犬談』。これ面白いです。太宰治という人のことがとてもよくわかるユーモアにあふれた作品です。
本書にからめて言うと、太宰の嫌った志賀直哉の『クマ』の出だしは、「前に岡本の谷崎君から貰ったグレーハウンド・・・」というもの。谷崎君というのは、もちろん谷崎潤一郎のこと。いきなり文壇仲間の話から始まるところなんか、ちょっといやだった。
一方の『畜犬談』の書き出しは「私は、犬については自信がある。いつの日か、かならず喰いつかれるであろうという自信である」。戦時色が強まる時期に書かれたもので、犬とのかかわりのなかで、「芸術家の使命」というものに触れている。大仰と言えば大仰なんだけど、そこが太宰らしくていい。『畜犬談』ご一読ください。