細部のことはともかく、非常に面白く、ミステリー作家としての作者の才能に敬服します。
なんとか賞に選ばれなかったのは、しかし、想像できます。というのは、「犬死」というのがどうしても政治性を帯びるからです。本書のメッセージはおそらく、特攻隊というのは犬死だった、というまぎれもない真実、鋭過ぎる指摘をしているのです。この指摘に耐えられる日本人はおそらくいないでしょう。この作品は、無意識のうちに、戦争の無意味さを表現したのですが、靖国体制の日本には受け入れられないのでしょう。
犬死は特攻隊に限りません。冷静で優しく才能に恵まれ、軍役に抵抗しながら、最後に徴兵されて、犬死同然に無念の戦死を遂げた先人が多いのです。「犬死」というのは、浮気に悩まされた妻の怒りではなく、本質的には戦争に駆り出された人々の怒りであるはずです。なぜ、東條ごときにあんな戦争を指揮させたのかと。犬死したくないと叫びながら米軍の豪雨のごとき砲弾に木っ端みじんにされた殺されたのです。にもかかわらず靖国神社に東條とともに祀られ英霊となる。擬制としての国家に対して、どうしようもない憤りといらだちを覚えます。大に付けた点はまさしく靖国体制への庶民の抗議なのでしょう。
本書のすぐれたところは、以上のような重苦しい暗黙のメッセージを娯楽小説のスタイルにしたことです。テレビドラマにすれば行ける。描写は映像的。中(高)年男として、ほろ苦くいらだたしい。社内恋愛を忌み嫌い、他流試合専門の中高年不良としては、安易だよね、それはプロのジャーナリストではないよ、でしたが。作者のような男への観察眼を持った女は今どきいませんが、欲を言えば主人公の女性は仕事を離れたときに女子高校生並みにバカで可愛いほうがよいと思う。