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コンクリートで固められダムになる美しい山河や、全長の55%もがブロックやテトラポッドで覆われている海岸。不法投棄の産業廃棄物の山と、そこから流れ出すダイオキシン。電線が空中を走り、けばけばしい広告看板をつけたビルがごちゃごちゃと建ち並ぶ街なみ。そして、全国に増え続ける多目的ホール、テーマパーク、人工島、高速道路などの無意味なモニュメント。こんな光景を美しいと思っている日本人はひとりもいないだろう。なぜこんなものを作ったのか、なぜこんな国になってしまったのかと著者に問われるのは、まったくお恥ずかしい限りである。
著者がその原因として指摘するのは、責任が不明瞭なまま機能してしまう行政システムと、その根本にある日本独特の官僚制度である。外国人の視点で見ると、日本の官僚制度の奇異さがよくわかる。天下りで個人的な利益を得る、特殊法人の運営で省庁が潤う、族議員とパイプを作り政界とも通じる。この馴れあいシステムによって、多額の公金が本当に必要なところには施されず、官僚にメリットを与えるところに注がれる。
自分たちに従順におとなしく従う国民を、都合よく作りだす教育システムまで官僚は作ったのだと著者は言う。子どもたちは足並みそろえて行動することを強要される。がんばることは美徳と教えられるが、これはひどい環境でも耐え忍べということだ。教育制度不信から子どもの塾通いが増え、子どもはいつも忙しくてがんじがらめになる。そしてその後の大学生活で、成績など問われず無為に遊んで過ごせば、分析的な思考法や独創的な発想能力、自然環境に対する愛情などを持たない骨抜きの腑抜けができあがるのは当然だ。
韓非子の故事から取ったというタイトルは、抜本的な解決が難しい日本の諸問題を「上手に本物らしく描くのが難しい犬」にたとえ、日本で行われている数々の無意味な施策を「どうとでも描ける想像物である鬼」にたとえて付けられている。
外国人が日本に対して何かを要求するのはおかしいという信念から、本書には「日本はこうすべきである」という表現はいっさいない。が、1900年代前半の、大日本帝国の拡大とその後の悲劇的結末へのプロセスと同じ道筋を、今また日本はたどっているという著者の警告を、われわれは真摯に受けとめるべきだろう。(篠田なぎさ)
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30 人中、25人の方が、「このレビューが参考になった」と投票しています。
5つ星のうち 3.0
無題,
By akina (東京都) - レビューをすべて見る
レビュー対象商品: 犬と鬼-知られざる日本の肖像- (単行本)
建築家、香山壽夫氏が『都市デザイン論』のなかで推薦しておられたので購入しました。香山氏は信頼できる方だと思っているので、本書についても大筋では信用しています。
都市景観問題についてはわたしも感心がありましたが、官僚制度のいかなる部分と関連があるのか、判然とせずにいました。緻密な分析ではありませんが、ガイドラインとして、本書は有用だと思います。 しかし、個々の実例についてはその分析の正確さに少し不安があります。 日本の官僚制と結びついた悪しき巨大プロジェクトの一例として、カー氏は故黒川紀章氏の「東京計画2025」(1987年)を挙げていますが、おそらく筆者は黒川氏の著作、提案を読んでいないか、あるいは意図的に無視しています。カー氏は3万ヘクタールの人工島を造るという案について、「…ひとつの山脈をまるごと削り、埋め立て用の土砂八四億立方メートル(スエズ運河の掘削で生じた土砂の一二五倍)を採取しなくてはならない」、「ひとつの山脈を削り取って東京湾に島を造る」おぞましい案であると述べています。 しかし、黒川氏の案では、土砂は「ひとつつの山脈を削り取って」得るのではありません。それは環境的見地から黒川氏自身が否定しています。「土の採取そのものが新しい計画を生み出し、価値を持つように計画した」のです。 土砂の採取は房総運河の掘削、東京湾の浚渫、房総新都心の造成、都市廃棄物によってなされます。運河の造成はかつて水の町であった潤いある東京の姿を取り戻す試みであり、同時に都市防災の見地から提案されます。東京湾に溜まったヘドロを浚渫し、水質改善を行う。進行する湾岸の埋め立ての代替として、それらの土砂で人工島を造り、生態系密度の高い浅瀬や渚を守ろうという環境配慮から発想された提案ともなっています。人工島によって土地を確保し、東京内に緑をふやそうというのもその一部です。 黒川氏は文化、環境、経済などをふまえた上で、社会に対するマニフェストとしてこの案を出しており、カー氏のいう単なるモニュメントとは異なります。そういった環境配慮の側面(そもそも水の問題が黒川氏の発想の出発点なのですが)をすべて無視し、巨大さだけを強調するのは誠実ではないと思います。 この案が何の見当も加えられず、実現される可能性があるというカー氏の日本制度に対する問題提起は有用かもしれません(とは言っても黒川氏の計画はあくまで「緊急提言」ですが)。しかし、数字と規模の大きさだけで読者を驚かせ、(嘘を混ぜて)「巨大プロジェクト」は良くないと黒川氏を批判をするのであれば、それこそ筆者が非難する統計のマジックと大差はないでしょう。 黒川氏の著作を一つでも読めばわかることですから、同様のミスリード(あるいは誇張表現)は他にもあるかと思われます。 本書は一視点としては有用でしょうが、個々の実例分析については、不安があります。その意味で、星三つとしました。
42 人中、33人の方が、「このレビューが参考になった」と投票しています。
5つ星のうち 3.0
日本と景観,
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レビュー対象商品: 犬と鬼-知られざる日本の肖像- (単行本)
日本の景観に関する限り、著者の視点には共感できる。ストックホルムから東京に戻ってきたとき、この国の都市政策には景観という概念が存在しないのではないかと感じた事を思い出す。日本の官僚制の弊害や、景観への無策について日頃から問題意識を持っている人にとって特に驚くべき事は何も書かれていないが、この本をきっかけに様々な情報源にあたってみるのも悪くないと思う。
7 人中、6人の方が、「このレビューが参考になった」と投票しています。
5つ星のうち 5.0
目からウロコ,
By
レビュー対象商品: 犬と鬼-知られざる日本の肖像- (単行本)
著者のセミナーに参加する機会があったのでその前に購入して読んだ。
各事象・情報は古くなりつつあるが、著者の視点には驚かされるばかりだ。 著者のような主張・考え方を残念ながら今まで気づかせてくれる人は私にはいなかった。 今回は長年の胸のつかえが少し取れた気がした。 個別の事象をとやかく言う人もいるようだが、それは別の問題。 心のどこかに日本が好き、地元が好きと言う領域がある人には是非読んでいただきたいし 町づくり・デザイン・観光関連の人々にはバイブルとなる一冊と思っている。
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