●科学と文学に関わる著作の多い著者が、これまであまり見せなかった「犬好き」な一面を披露した珍しい作品。犬がキーワ―ドとなる小説を、夏目漱石から江國香織まで幅広く紹介する。
●特に犬好きでもなかった著者=小山慶太は、息子が欲しがって飼いはじめた柴犬のおかげですっかり犬のとりこになる。それ以来、犬の出てくる小説にはとくに強い共感を持つようになったようだ。
●そのため、犬を飼ったこともなければ特に犬好きでもない読者は、その犬馬鹿(?)っぷりにところどころゲンナリさせられるだろう。たとえば、飼い主の犬に対する愛は「必要とされている自分」や「信頼されている私」に満足を覚える自己愛の変形である場合が少なくない。この事実を、著者は、もはや恥ずかしがることも隠すこともしない。
●本書が、ありがちな「犬だいすき本」から一線を画しているのは、著者の高い文学と科学(ここでは特に動物行動学)の素養と巧みな文才のおかげである。本当に犬が好きな人は、ペット産業に癒着した「犬だいすき本」などに惑わされず、本書を読むべきだ。逆に、犬好きでもない昔からの小山慶太ファンである私は、普段の冷静で明晰な著者が見せた意外な一面に少々の戸惑いを覚えた。