こんにちは。川原テツ著『名画座番外地』に登場する元「バイトの道産子」で現「ビンボーな構成作家」、奥田です。本人です。
あの本を読んだ人からよく「どこまで実話?」と聞かれますが、僕の知ってる限りではすべて事実です。あれでも関係各位に配慮して表現を一部ソフトにしているほど。なので「クソガキ」アキラも、まさに書かれている通りのキャラなんです。彼が忘年会でしこたま酔っ払い、バタつかせた足が介抱する僕の顎にめりこんだこともありますが、僕はオトナなので怒りませんでした。でもちょっと根に持ってるので、いま書きます。
で、そのアキラくんがついに本名をさらして発売したCDですが、いいです。「少年老易学難成」なんて、ホントに自分のことだもんね。いつのまにか、しっかり表現者になっていたことに、ジンときました。売上に貢献しようとサンプルをもらわず、自分で買ってよかった。
バイト時代、ブルースを演ってると打ち明けた鶴くんを、からかったことがあります。
「ジミヘンとかサンタナみたいに、天に向かって叫びながら炎のギターソロやってくれたらかっこいいなあ。歯で弾いてよ、背中で弾いてよ。そしたら見に行ってあげる」
「……もういいです。違うよ、この人。僕のブルースはそんなんじゃない」
そしたら、人をおちょくることに関しては神懸りな才能を持つテツさんが入ってきて、
「そーだよなー。おめえのブルースはコットンフィールズじゃなくて千葉のピーナツ畑から生まれたんだもんなあ。あ、長ねぎも産地だっけ」
しかし、そんなテツさんがプロデュースしたこのCD、ほんとにそんな感じ。野菜の生産額全国第1位のゆたかな県で生まれ、みんなに可愛がられて生きてきた男がわざわざ歌うアコースティック・ブルースは、なまじ東京で夢なんか持ってしまった奴の日々の純情を丁寧に掬いとる方向に向かいます。そういう声と、甘くてちょっとさびしいギターの響きです。
〈音楽を愛してしまった/どうすりゃいいんだろう〉
〈人のやさしさを歌にしてこれたのは良かった〉
こんな言葉が、あちこちから、スッと胸に忍び込んでくるアルバムでありますよ。
CD制作の知らせを誰よりも喜んだ『名画座番外地』のヒロイン、米子ちゃんは、さっそく僕に指示を飛ばしました。
「アンタ、これから毎日電話しなさいよ」
「電話ってどこに」
「バカね〜、有線に決まってるじゃないの。リクエストでヒットさせなさい」
「……ムチャですよ、なに言ってんの!」
「根性ないわね〜。すぎもとまさとの『吾亦紅』にね、負けてらんないのよアンタ」
僕一人ではどうにもならん、恐るべきミッションです。みなさん、ぜひご注目ください!