「ミレニアム」というメガトン級のベストセラーの登場でミステリエンタティメントの分野でも非英語圏の北欧からの秀作紹介の機運が高まって来たようです。
本書などその好例と言えるのではないでしょうか?
デンマークと言えば日本人からすればアンデルセン童話や福祉国家の印象で「安定した豊かな国」のイメージが強い気がします。
そんな国の警察を舞台にした本書では我々の先入観を崩しかねない、平穏でも牧歌的でもないリアルなデンマークが描かれていて興味深い。
「特捜部Q」まずタイトルがいいですね、早川ミステリらしいセンスを感じさせる装丁もGJ。
結構ボリュームのある本書ですが物語の骨格は至ってシンプル。
故あって新設の特捜班Qをゆだねられたカール・マーク警部補が未解決の国会議員失踪事件の真相に迫るというもの。
実際には被害者である女性議員の視点から見た異様な事の成り行きも交錯する形で描かれており、読者もカールと供に少しづつ明らかになる情報を共有しながら凶悪な事件の真相に近づいてゆくことになります。
設定はシンプルですが人物造形&背景は中々陰影に富んでいて読ませます。
カール警部補は自らも負傷し、仲間を失った事件の影響を思いっきりひきずったままで捜査への熱意を失っており、特捜部Qのトップに着任したはいいが実際には体のいい厄介払いを喰らった状態。
おまけに与えられた部下(というか雑用係)は謎めいたシリア移民のアサドただ一人。
家庭も崩壊しております。
という訳で決して読んでいて素直に共感できるほど主人公の心情は楽観的ではない。
普通なら事件を通して彼の「再生」が描かれて行くのでしょうが、この辺りがアメリカ圏の作品とは異なる印象なのですが意外な程ドライなんですよね。
「ミレニアム」もそうだったのですが主人公の苦悩や心情がきちんと描かれているのに何故かウェットにならない。
かと言って決して「冷淡」と言う訳でも「ハード・ボイルド」でもない、不思議なバランス感覚というか距離感を感じるんです。
犯罪自体の内容も変な意味でエキセントリックなんですよね(副題の「檻の中の女」は実に的確)。
欧米のサイコホラー的な血まみれの惨劇などとは異質なのですが粘着的かつ偏執的な嫌ぁな感覚で、この辺りが意外と「国民性」だったりするんでしょうか(笑)。
今回はシリーズ第一弾ということもあり、多分に主人公を取り巻く状況のお披露目的な側面が強くなっております。
結果として謎めいたアサド氏の背景も明かされてはおりませんし、カール警部補も本格的に立ち直った訳でもありません。
しかし登場人物たちの今後に関心を抱かせるだけの魅力を持った作品であったのも事実。
新作
特捜部Q ―キジ殺し―― (ハヤカワ・ポケット・ミステリ 1853)もぜひ読んでみたいと思います。