当著は「
藤原氏」「
蘇我氏」に続く“正体シリーズ”の掉尾を飾る著作である。これらを所謂“日本古代史のトンデモ系作品群”として一笑に付す読者もいるかもしれない。だが、たとえば、古代日本における“ハイテク製品”としての「鉄」あるいは瀬戸内の水運や交易などにも目を向けることは、古代史を謎解く一つの手掛かりになるだろう。実際、後者の場合、『魏志倭人伝』等を通じて、「日本でも市場経済は、少なくとも千数百年の歴史を持って」(
岡崎哲二・東大教授)おり、こうした観点からの古代史へのアプローチも大いに有用だ。
そして、決して無益でも突飛でもないこれらの視点も参酌しながら、著者の関裕二氏は、「鉄」と「蘇我氏」、「水運」と「物部氏」といった接近法で、〈仮説−検証〉の手順を踏まえ、推理力を縦横に駆使して、“日本古代史の謎”を解き明かしていこうとしている。また、「逆説の日本史」シリーズを世に問うている作家の
井沢元彦氏 は、「日本の歴史学の三大欠陥」として、「日本史における呪術的側面の無視ないし軽視」「史料至上主義」及び「権威主義」を挙げているが、関氏も日本古代における「呪術的側面」を重視しているのも特徴だ。
「物部氏とは、一体何者なのか」という問いの答えは、この著書の根幹に関わるので、敢えて伏せておくことにするけれども、「物部氏」や「蘇我氏」の「謎=正体」を探ることは、必然的に「天皇家」とも関わりを持ってくる。私自身は、日本国における天皇家=皇室の存在を好ましいものと考えており、世界に誇りうる「宝物」と認識しているが、こうした心想とは別に、天皇陵などの学術的考古学的な調査は行うべき、と常日頃思っている。それはさておき、藤原氏などによって歪曲された日本古代史を正す営みは続けなければならないだろう。