時代の一大転換期を生きた女性たちに焦点を当てた『歴史読本』特集記事を文庫本一冊に凝縮して、まさに幕末史の陰に女ありを教えてくれる波瀾万丈のエピソード集である。
筆者毎に尊王歌人野村望東尼を「ぼうとうに」「もとに」とまちまちに表記する不統一感が却って面白い。唐突に伝聞異話を披露する書き手もあって、書名に「物語」が付く理由を当推量し妙に納得させられる。
綴られたエピソードには、封建時代の制約の下で峻烈な人生を辿った女性たちの歴史的役割を大いに考えさせられるものが多い。「闘う女性たち」「駆けた女傑たち」という章題に入って、一層その感慨が強まる。初めて耳にする挿話に驚嘆したり、戦慄したりと忙しい。
例えば、宝塚歌劇さながらに男装の女医にして漢学塾教師として生きた高場乱(おさむ)。生家の南部盛岡藩に対する賊軍の汚名を雪ぐことに献身した文武に秀でた姫君華頂宮郁子。水戸天狗党の領袖たる武田耕雲斎の後妻に入ったがために、幼子二人と共に梟首の憂き目に遭う武田とき。
有名無名の人物が遺した足跡を探訪し、新たな事実を掘り起こすのが歴史家の使命だとすれば、その労を多としながら、読者は静かにただ古人(いにしえびと)の教訓や人智の及ばざる儚さに思いを致すべきなのだろう。
可憐な面差しを洋装に包んだカバー表紙の若い女性は、元海援隊士で維新後に外務大臣に上り詰めた陸奥宗光の愛妻亮子だそうだ。写真嫌いの夫に代わって品良く老いの姿を写した西郷隆盛の妻いとはともかく、晩年の写真一枚が現存するだけの坂本龍馬の妻お龍ならきっと不公平な扱いに憤り、編集者に詰め寄ろうと化けて出るかも知れない。