非常に優れた書籍だと思うが、読み方には工夫がいる。
1)取り扱っている時代は、紀元前550年のアケメネス朝ペルシアの時代から、1980年代の「第二スエズ運河構想」まで、非常に幅広い。勢い濃淡がある。従って、通史についてある程度知識がないと、なかなか追いついていけないと思う。
別の本で通史を一回頭に入れてから読むことをお勧めしたい。そうすると、この書籍は、実に面白い視点を我々に示唆してくれる。
2)本書で特に力を入れて記述されているのは、6世紀のイスラム教の成立、それに続く爆発的なイスラム世界の拡大、そのイスラム世界が初期の精神を失い分裂した頃に始まった十字軍(第一回十字軍は1096年)、その十字軍にイスラム世界がいかに対抗したか、同時に行ったモンゴルの侵入の阻止、十字軍勢力の一掃(1291年)とモンゴル侵入阻止を成功させた後の、「オスマン・トルコ対西ヨーロッパ」という国際政治の舞台の確立と、ヨーロッパ人による大航海時代への突入(コロンブスのアメリカ大陸発見は1492年)までである。
この間のイスラム世界の拡大、性格の変貌は、その背景を含め、実によく書かれている。
「サラデイン」「バイバルス」といった英雄たちの実像も、実に生き生きと描かれており、小説を読むようにワクワクさせられる。
3)イスラムの側から見た「十字軍の時代」
特に、十字軍の時代をイスラムの側から捉えなおした部分は、通常の十字軍の歴史が西洋側から語られることが多い中、非常に新鮮。
4)イスラム世界の拡大と性格の変貌
類書ではなかなか納得いく解答がえられない、何故、イスラム世界は、成立直後からあのように爆発的に拡大したのか、という問いに、本書は、比較的よく答えてくれている。「正統カリフの時代」「ウマイヤ朝」「アッバス朝」「セルジューク朝」の性格の色分けも非常に分かりやすい。
5)結論
繰り返しになるが、一回通史を頭に入れて読むと、この本は実に面白く、今まで断片的であったイスラム世界の成立、拡大、変貌が非常によく理解できる。トライされることをお勧めする。